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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト【128】

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 そこに船は影を落とし、少し雪煙を立てて降下した。構体が大地に接すれば音を立てようが、積雪は音を吸収する。
 ビクターが尻尾を振ってこちらを見ている。命に応じて吠えはしない。主人の帰宅に、主人の変化に、嬉しくて声に出したいのをじっと我慢している。
 レムリアは少女の着衣を元に戻し、彼女を下ろした。
「行っちゃうの?」
 少し寂しげ。〝眠れない〟という日常へ戻る事への、不安と怖さ。
「今は、ね。でも大丈夫。何かあったらまたこうして飛んでくる。私にはあなたの心の危機が判る」
 レムリアは断言した。それは半分本当で半分嘘である。1万キロテレパシー使えるとは思わない。ただ〝胸騒ぎ〟はするであろう。加えて、何かあれば今日のように偶然が積み重なってシグナルをキャッチできるという、漠然とした認識がある。
 それこそ奇蹟のように。
「天使の権限で?」
 パジャマにガウンの少女は小首を傾げて尋ねた。
「ええ、天使の権限で」
 レムリアは笑顔で答えた。
 イヤホンに声。相原青年が目覚めた。
 次は彼を返しに行かねば。
「では、次の任務に向かいます」
「うん。頑張って。私祈ってるから」
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 いっぱいいっぱい、子ども達を救って。
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-20-
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 温泉療養施設。キームゼー。
 医療宿泊棟は大理石をメインとした円形の構造物であり、中央に噴水を備えた庭があり、環状の回廊が囲み、その外側にリハビリやレクリエーションなどの部屋が並ぶ。
 回廊には車いすのお年寄りが多い。
「このようなステッキの先端から花が咲くというのはありきたりで面白くないので……」
 流暢なドイツ語は少女の声。
 声の主はTシャツにジーンズという軽装で、回廊でステッキを手にして立っている。回りをお年寄り達が囲んで眺めており、あたかもストリートマジシャン。
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(つづく)

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