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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト【83】

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 すなわち彼らは、突如現れた船に対し、神による奇蹟の顕現、悪の処罰を見た。
 そういう認識の裏で自分が関わっているという現実。
 影響力の大きさに背筋が戦慄する。今の自分の素直な感想。見えざる手による大きな采配。
 そこへ組み込まれた。
 変わった。動いた。
 新たな世界が動き始めた。
 過去を振り返るタチではないが、〝変化〟の認識は、過去と現実を比較している裏返し。
 レムリアが故郷に背を向け、〝世界一自由〟なこの街へ来て2年。
 しかしそれは〝逃げた〟という後ろめたさと、居場所無しの根無し草な不安定感を彼女に与えていた。なまじっか心身に関する知識もあるから、それが思春期の自分には良くないことだとも判っていた。ただでさえ心不安定になる年頃である。身の方まで不安定でいい影響があるわけない。
 事実、中途半端に日々を過ごしていたように思う。学校はフリースクールだから最悪半年に一度顔を出せば良く、単位はメールなり手紙なりでレポート提出。かまけて〝それだけこなしていた〟充足感のない毎日。
 そして今、肩書き増えて戻った真の意味を知る。自分は多分、自分のフルパワーで動ける居場所を見つけた。それが飢えるように欲しかったから、列車に乗って前を見たのだ。
 だから、この部屋がいつものようでいつも通りではなく、どこかしら余所余所しい。
 気付く。船にオリエンタリスを置き忘れてきた。
 どころか、衣装ケースもハンドバッグも置いたままだ。
 〝持って帰る〟という意識がなかったからに相違ない。子ども達の様子を見て、一休みするためにここへ来ただけ。
 寝に来ただけ。
 でもまぁいいやと思ってしまう。またあの船に乗るわけだから。
 あそこに私の部屋があるんだし。
 不思議な話ではある。大陸地塊に載った不動のアパートに浮遊感があって、10秒で地球を一周する船に安心安定を覚えるのだ。
 その理由の一つに、彼ら大人達の中に素直に入って行けたし、迎えてくれたという事実があるのは確かだ。
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(つづく)

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