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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト【13】

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 話しているうち、二人はホームを横切り、彼女は2号車出入り台の下に立った。
 ドームの向こうから回り込んでくる陽光に、煌めくような青。
 1輛はさんで向こうは緑色の蒸気機関車。このように動いている蒸気機関車に接するのは初めてである。その匂いは“窯”“炉”といった言葉を思い浮かばせ、煙と、時折聞こえるエアやメカの音は“生き物”を思わせる。
 と、見ていると、近づく足音があり、傍らに男性。……付けている香水のタイプでそう判断。
「お好きですか?」
 キングス・イングリッシュに振り返ると、金ボタンの制服に身を包んだアフリカ系の男性。
「2号車スチュワードのジェフと申します。列車内のご案内を仰せつかっております」
 胸に白手袋の手を当て一礼。自分の身長が150そこそこというせいもあろうが、見上げるほど背が高く、筋肉も腕っ節強そうという印象。比して、顔立ちは丸っこく穏和な感じ。
「あ、いえ、こうやって動いてるのを間近に見るのは初めてで」
 彼女は答えた。ジェフ氏はエミリーさんと二人並んで“控えて待機”みたいな感じ。何だか気が引ける。
 さっさと列車に乗ろうか。すると。
「そうですか。でしたらもう少し近づいてみて下さい」
 ジェフ氏は言って機関車へ向かって手のひらを示した。
「え……」
「体温が感じられますから」
 機関車に体温。何のことかと近づくと、それは、それこそ暖炉の暖かさ。
 機関車から発熱しているのだ。なぜなら。
「中で石炭を燃やし、そこに水が流れ込み、蒸気が生まれる……生きている蒸気機関車は血の巡りを持っており、暖かいのです」
「生き物なんですね」
 彼女は応じた。思わず見つめてしまった理由はそれだ。やはりそうなのだ。
 機関士の男性が会話する自分たちに気づき、窓から顔を出してウィンク。
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(つづく)

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