アルゴ・ムーンライト・プロジェクト【27】
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「ありがとうございます。我々一同にこの上なくありがたきお言葉賜りました。つきましては、お食事がお済みでしたらこちらサロン車よりご招待があるとか」
「はい、そうです」
サロンのチーフがまずは一礼。
「お集まりのお客様方が、殿下とのダンスを望んでおられまして」
つまり、舞踏会。
列車の中で舞踏会。
「喜んで」
彼女は笑顔で応じた。
(作者註:ディナーのメニューは「オリエント急行」【教育社・1985年】に依った)
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アルフェラッツ王国はアルプス東方、欧亜境界に位置する小国である。
民族血統は東アジアの系を引くが、言語文化は欧州側に属した。
従い魔法というのは欧州サイドの捉え方〝マジック〟に由来するが、実際的には東洋的シャーマニズムに分類される。欧州は古来諸公国が乱立し、覇を競ったが、アルフェラッツはあくまで中立を守り、むしろ仲裁と安定を請け負う役を担った。平和裏に解決、そのために魔法を求められ、外貨を得て生業とした。
その特異性は畏怖の対象であったようで、攻め滅ぼし我が国の領土に、と考えた国は歴史にない。それが現代まで2度の世界大戦を越えて同国を存在せしめた。或いはそれこそ魔法の効能と評する向きもある。
ただ所詮、端境の辺境。
科学技術文明と巨大産業の発展により、小国の生業は20世紀以降おとぎ話に封じられた。
国はそのおとぎ話の故に、観光収入をようやくの糧とし、古来の貯蓄を取り崩して体面を保っている、というのが正直なところである。魔法の国のお姫様というイメージにはほど遠い。
しかし、しかし。
その夜は違った。彼女はソファが片付けられた急ごしらえの〝ダンスフロア〟で多く異国の人々とステップを踏んだ。
それこそ、まさに王女の仕事であった。
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(つづく)
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