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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト【5】

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 招待状の文面をもう一度良く見る。迎えを出す代わりに、この列車を“用意した”……?
 リーフレットのページをめくる。いかにも豪奢な室内や装飾の写真が目を奪い、説明文には“アールヌーボー”“アールデコ”といった文字が躍る。列車の歴史が書かれ、利用した王族の写真があちこちに貼ってある。飛行機出現以前、そもそも国を超えて移動するという行為は、金持ちの道楽か、国家外交などの必然からなされていたもので、どちらであれ、それなりの地位の人間が利用した。それを前提に内装はもちろん、警備・接客の配慮もなされたのがこの列車である。追って少し詳しく書くことになろうが、車輛1輛ごとに専属のスチュワードが配置されたのも、ホテルのボーイに相当する業務のみならず、“王侯貴族に安心して列車の旅行を楽しんで頂く”ためだ。日本の場合、皇族専用に“お召し列車”……今日の“特別車輛”が用意されているが、欧州ではこの列車をそのまま利用したり、荷物車だけ作って(王様の外遊であり荷物は大量)連結させ、食事を個室に運ばせるなどした。逆に言えば、そのまま王侯に供せられるグレードの内装とサービスを備えていたのがこの列車、と言って良い。
“ディナーにおいては男性はネクタイ着用、女性も盛装でお越し下さるようお願い致します”
 ドレスコードのある列車レストラン。
 女王様が“自分のためだけに”これほどの列車を借り切ったとは到底思えない。が、これで来てくれとした意図のようなものは見えてきた。隠密ゆえにSPや警備を用意するのは不可。しかし小娘に乗り換えの労や伴うリスクを排除し、長距離を確実に。
 すなわち、隠密裡にされど自分を遇しつつ。
“マタ・ハリが良く乗っていたと言われますが真実はどうでしょうか。ジェームズ・ボンドが寝台個室で格闘した痕跡も、現在のところ公的には確認されておりません”
 オリエント急行に乗って極秘任務。……突然の凄い話ではあるが、断る理由は無いであろう。そもそもこの住所を知っているということは、親も主旨を了解して住所をコルキス王室に開示したのだ。
 あの服、まだ着られるかな……彼女は身体をひねってクローゼットに目をやった。
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(つづく)

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