アルゴ・ムーンライト・プロジェクト【1】
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トラム(路面電車)を降りれば、借りているアパートは、3ブロック先だ。
白い息を吐きながら、彼女はすっかり暗くなったレンガの街路を早足で歩く。ころん、とした顔立ちの、幼い感じを残した娘。身長150。黒い瞳に黒髪の持ち主であり、その髪の毛は肩に触れない程度にスパッとカット。少女マンガのヒロイン向きという表現が使え、どちらかというと渋谷や原宿でスカウトされそうな容姿雰囲気。しかしここは日本よりユーラシアを隔てて1万キロ。大西洋に接し“低い土地”をその名に冠した国の首都。
12月。
繁華街はイルミネーションで彩られ、このアパート建ち並ぶ街区でも、見上げる窓や玄関に飾り付けがチラホラ。聞こえ来る子ども達の声が弾んでいるように思えるのは気のせいか。
対し、足元に目を落とし、更に街路行く先に目を向けると、飾られた灯りとは対照的に、街灯があるにもかかわらず明るく感じない。おのずと、首をすくめるし早足になりがち。
自分のアパートに着く。レンガ造りの3階建て。
単身者世帯向けで、元より住人に子どもは少ない。帰宅の遅い部屋が多いせいか、灯りの点いた窓は二つ三つ。建物の古さも手伝っているだろう。周囲に比して沈んで見える。
彼女は鉄階段の下、集合ポストを覗き、いつものように何もないことを確認して階段を上がろうとし、足を止めた。
封書。
この住所を知る者は少ない。故国の家族と、その家族と付き合いのある一部の知り合いだけだ。今通っている学校にすら、ここの住所は伝えていない。
彼女は封書のあるポストに手のひらを向け、目を閉じ、そのまま数秒保ち、目を開き、ポストを開く。
流麗な筆記文字で手書きされた宛名……メディア・ボレアリス・アルフェラッツ(Media Borealis Alpheratz)確かに自分宛だ。
差出人は誰。ひっくり返すと、垂らした紅のロウに印章を押し、封印してある。
その印章。
「あ……」
思わず声が出、その場で開こうとし、慌てて中断し、彼女は急いで階段を上がる。
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(つづく)
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