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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト【24】

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 裾を持ち上げ、舞うように踊らせ、彼女はグランドピアノ脇をすり抜ける。
 その青は、この列車がまとう、夜明け前の空の色と同じ青。むろん単なる好みであって、意識して故国から持ってきたわけではない。今宵の一致は偶然の悪戯。
 窓越しの月光が彼女を照らし、その故か、ピアニストが一礼して鍵盤に指を立てる。
 ベートーベン〝月光〟。
 旋律に合わせて彼女はカーペットの上を一歩ずつ行く。左右窓際に配されたソファセットから拍手とため息が自分を迎え、そして送る。
「まぁ……本当にプリンセスでいらしたのね」
 それはアムステルダム待合いで声を掛けて下さったご婦人。
「メディアと申します」
 淑女の挨拶。
「まぁ……まぁまぁ……可愛らしくてお綺麗で……何てことでしょう。ため息しか出ませんわ……」
「ありがとうございます」
 婦人は涙すら浮かべて感激してくれた。文字通りのセレブレーションセレモニー。列車側の演出なのであろうが、他の皆様が喜んで頂いているならそれで良い。
「また後でいらしてね」
 誘いの言葉に頷いて応じ、隣接レストランカーに導かれる。手前が厨房であり、過ぎて中央に通路があって左右にテーブル。右側は4人掛け、左側は2人掛けが6セットずつ。純白のクロスにテーブルランプ。窓際で揺れるその赤いシェードが印象的。ただ、椅子の数一杯に座ったテーブルはなく、やや余裕を持って白いプレートとグラスが並ぶ。それらテーブルに着いた人々も、隣接サロン車の拍手とざわめきは気になっていたようであり、全員の目が自分に集まる。
 自然と拍手。思わず照れたら、より好感を持たれたようで更に拍手。
「プリンセスをお願いいたします」
 ジェフ氏が口ひげを蓄えたレストランチーフに一礼。
「カルトを何か私のおごりで」
 一言添える。
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(つづく)

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