アルゴ・ムーンライト・プロジェクト【42】
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コンクリートの大空間に船があった。
アムステルダムの駅よりも広いであろう、コンクリートで囲まれた箱の中に帆船が鎮座している。舳先を左手に、船尾を右手に。彼女は左舷側に立っている状態。
まるで中世の港へタイムスリップしたかの如くであり、王家王宮の地下空間に全く相応しくなく、驚嘆しか与えない光景であり存在である。ただ、3本マストそれぞれが抱く3枚の帆は布地ではない。白い四角四面の板であり、現代工業製品の趣。
その突拍子の無さからして、当の〝プロジェクト〟に関わりの深い存在であろう事は判った。冠している〝アルゴ〟とは、ギリシャ神話に出てくる帆船の名前だ。果たして目の前のその船は舳先の部分にargoと銘してある。この船を使ったプロジェクトであると理解できる。確かに巨大だ。
だがこの船で何をする。どこへ行く。
新大陸を探しに行くコロンブスか。
それとも現代に相応しく宇宙の大海へ乗り出すのか。
……まさか。いや、まさか。
と、船の陰から人の姿。そういえば女王陛下御自らがお出迎えと。
「お待ちしておりました。メディア・ボレアリス・アルフェラッツ王女殿下」
冴えた英語に顔を向けると、〝成人の姉〟というイメージを抱かせる、白装束の若い女性がそこに立っていた。
それは確かこの国の正装と聞いた。アラブ系の民族衣装に起源を持ち、ギリシャ-ローマ系のtoga(とが)と混交した末の一枚布。
まるで女神。女王が纏うに相応しい。
若く静謐な面持ちの女性が自分を瞳に収め微笑んでいた。
その国籍不明のミステリアスは。
「アルゴ・ムーンライト・プロジェクトへようこそ。お願いに快諾下さり感謝の念に堪えません。わたくしは当プロジェクトにおいてコールサインを〝セレネ〟。あなた様のコールサインはいかが致しましょう」
……考えて来い、のこと。
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(つづく)
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