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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト【21】

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「ああこのまま死んでもいい」
 レムリアと目を合わせた氏の開口一番がそれ。
「お手をどうぞ」
 白い手袋を差し伸べる。
「はい」
 彼女は応じて左手を差し出す。エスコートされて通路へ。
 白熱電球で照明された通路は、赤いカーペットとマホガニーがいい色合いに照り返し、ゴージャスそのもの。
「蛍光灯だと興ざめでしょうね」
 レムリアは言った。
「でも世界で最初に電球照明を採用したのはオリエント急行なんですよ。それまではガス灯や蝋燭を使っていました」
 ジェフ氏は言うと、コンパートメント側の壁にある金具を指差した。
 鍵穴のフタを思わせる花びらを模した板状の金具。ジェフ氏はくるりと回転させ、壁の中から小さな受け皿を引き出した。中心にはピンが立っており、似たような形状をした理科の実験道具を思い出させる。
 蝋燭立て。
「当時の装備です。現代の安全基準からは、当然、ここに蝋燭を立てることは出来ません。しかし、リストアに際して、できるだけ往時の姿に、というオーナーの意志から、忠実に復元しました」
 蝋燭立てを戻し、ジェフ氏の案内で再び歩き出す。
 車端に椅子と机と、机の上には花瓶。
「花があちこちに」
「ええ。ここが私の待機位置ですが、花のある職場は実に和んで良いものです」
「待機……ってここに座ってらっしゃる」
 その椅子は木材意匠こそ凝っているが、長時間座るには向かない。〝喫茶店の腰掛け〟を思わせる簡素な構造。
 運転中ここにずっと座って。スチュワード……ホテルボーイと同じであるからそうなのであろうが。
「お疲れになりませんか?」
「お気遣いありがとうございます。今の一言でまるでアルプスの夜明けのような気分です。さ、遅れます。お料理も合わせて作っておりますので」
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(つづく)

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