【妖精エウリーの小さなお話】けだもののそんげん-19-
従って当然、“死んだ”という認識はありません。帰るべき親元や飼い主、死後導く者……つまり妖精……そのどれもが存在せず、ここにとどまって困っているだけ。
トラック側の扉が閉まり、反対側、施設内奥側の同様な扉が開き、フォークリフトが去って行きます。もちろん無線操縦なのですが、決まった軌道を往復するでなく、機械同士が連携して動作しているわけでも無い。それは意志の介在を感じるその動きであって、言うなれば幽霊が乗っているよう。
ブザーが鳴って赤い回転灯が点滅し、施設側扉が閉まり始めます。
音声警告。“これからガスが出る。直ちに退出せよ”。
〈エウリーさん〉
動物たち、とりわけミミズクから感じる不快感。同時に私の袖の中で震えるものあり。
震えるものは手のひらサイズの液晶画面。そういう携帯電話(作者註:スマートホンのこと)のようですが、実際にはコンピュータ。21世紀になり妖精の基礎知識では判別できない人造物質が多くなり、その解析にと持たされたのです。ガイア様のおっしゃった“あれ”の正体。
画面には。
警告:根源不明強大磁力
鳥たちは体内磁石で方角を感知します。これだけの磁力があれば体調もおかしくなるでしょう。
フォークリフト側の扉が閉まります。
音が聞こえなくなる。
照明が消える。
金属の箱。
重い物が動いてきます。透視に寄れば上からワイヤで吊られた大きな円盤。
巨大な磁石と判ります。コンピュータの言う磁力の正体。
コンテナの蓋に吸着し、外されます。
コンテナの中があらわになります。とは言え照明がついてるわけではなく、暗闇で赤色灯が点滅しているだけ。その周期に合わせてコンテナの中、累々たる亡骸がフラッシュ状に照らされます。
この鉄箱の中の膨大な死。
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