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【魔法少女レムリアシリーズ】Baby Face-22-

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「(意図したこと形をなさず)」
 聞き覚えのある男の声が、特異な言語を街路に響かせる。日本語に訳すとそういう意味。
 ただ、その意味を知るのは彼女と、彼女の母親たる存在のみ。
 否。
 彼女は、ハッと覚醒した。
 “スイッチが入る”感覚が生じ、彼女は口をふさいだ指に噛みついた。そして反射的にその指が離れたところでその語を自ら口にした。
 原語で記述するのは避ける。
 
-しゃがみこめ
 
 心理に直接示唆があり、その通り身体を縮めると、空気をブンと引き裂き飛来するもの。
 鈍い衝撃音がし、背後にいた男の顔で何かが炸裂する。
 否、小ナイフを持った彼、ラブレターの主が叫び声を上げ、首をのけぞらせた。
 炸裂したものは赤と白とが入り交じる。一瞬それは彼の頭部脳組織そのものではないかと思わせたが。
 散った飛沫が唇に付着し、ハッとする程場違いな味覚が答えをもたらす。
 果物のリンゴ。
 引き続き、力任せとばかりリンゴが次々飛来し、男達の顔をしたたか打って行く。
 リンゴは書くまでもなくそれなりに高密度な果実であり、高速度で人体に当たれば相当痛い。
 明らかに自分の状況を見取り、救援のために投げつけられているのである。
「Ik politie!」
 それはオランダ語で警察の意。但し発音はまるっきしデタラメ。
 その声の主。
「ポリス!ケイサツ!ポリーツェ!ポリーツァ!ポリーシァ!」
 黒いコートを翼のように広げ、そのように叫びながら、その男は闇の中から走ってきた。
 まるでコウモリである。一体誰か。街灯に光ったのはメガネの銀縁。
 立ち止まり、抱えた紙袋から再度リンゴを取り出して投げつける。
 それは野球の投球フォームであって、力学的には全身と腕と手首まで用いて回転力を投擲物に重畳する。素人であれ射出速度は時速100キロを軽く越す。
 

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