【妖精エウリーの小さなお話】けだもののそんげん-27-
「うぉ?」
「ど、どこから来た」
「応じた場所から」
私は悪魔の気分が少し判ったような気がしました。
念動で束縛してしまいます。目に見えぬ壁を押しつけるようなイメージです。彼らは得物を手にするまでは出来ても、そこから一歩も前へ進めず、その腕を動かすことすらままならない。
「火が迫っていますが」
ナイアデスが感情を感じない声で言いました。
フラットで真っ黒。それが今の彼女の心情。起伏や柔らかさはどこかへ行ってしまった。
いえ、そういう心理状態、柔らかい気持ちでこういう者達と対峙すると、それこそこちらが精神の異常を来す。
真っ暗になります。火災報知器の激しいサイレンが意気消沈するように停止しました。
主たる発電装置に火が回り、完全に電源が断たれたのでしょう。
「天井を壊せばダクト経由で外へ出られるようです」
ナイアデスが言い、
「はい」
私は拳の衝撃波で天井に穴を開けました。一般的な吊り天井に建材ボード。造作もありません。
「動物たちを先に」
「了解です」
ナイアデスが小さくなって誘導します。ダクトに入れば後は判るとは動物たちの弁。外からの空気の流れ、外への空気の流れを敏感に感じるようです。
猫一匹は自らの意志で私の肩に残り。
老犬は大きさもありましょうが、
〈これでも牙持つ身〉
そう言って、会議室机の上に飛び乗りました。
〈人語に変換を〉
〈はい〉
少し小細工をします。犬の声として彼らの脳裏に再生させます。
「おぞましき所業許すまじ」
「うわ」
「喋った。犬が喋った」
「黙れ」
「化けもんだ」
「ぬかせ。お前たち自分達の子供の血肉を喰らうか?どっちが化け物だ」
ナイアデスから連絡。地上へ出た。及び、接近する怒りと困惑……誰か来ると言うことでしょう。
どん、と音がし振動。最下層でなにやら爆発があったようです。
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