【魔法少女レムリアシリーズ】Baby Face-25-
警官姿の自分を見回し、別段驚くこともなく、もういいよ、と彼女に告げる。己が身に生じている事象を把握しているのである。
彼女は指をパチンと鳴らす。
相原学はサラリーマン姿に戻る。ポケットティッシュを取り出し、ベルト金具の血糊を拭い、自らの腰に戻す。
それは刀の血飛沫を払うサムライの所作を思わす。
「大丈夫か?」
尋ねる彼を見ている自分が震えていた。レムリアは氷点下のレンガの地面にぺたんと座り込んでしまった。
今更のようにガクガクと身体が震え出す。震えは勝手に生じるもので自分自身で制御できない。
震えが拡大し、どうしようもないくらいに全身が震える。それでも抱え込んでいたらしい買い物の紙袋がバサッと落ち、歯がガタガタ鳴る。
まるで突如極地に放り出されたように。
抑制されていた恐怖が一気に解放され、応じた反応を身体に惹起したのであった。
「おお大丈夫か、怖かった、怖かったな。ごめんな、あと1本早いトラムに乗れば良かった」
相原は膝をついてしゃがみ込み、コートの内側に包むように彼女を抱きしめ、かかえ上げた。
暖かいものにふわりと包まれ、彼女は力が抜けるような感覚に襲われた。もう、いい。何もしたくない、なすがままでいい。
そして恐らく、自分は泣き出す。
何もかもぶっ壊れてしまったかのように、大声で泣き出してしまう。みっともないとも思ったがどうでもいいとも思った。自分で、自分が、どうにもならない。
相原の腕の中にただ自分があった。
ありったけが、涙と、声と共に、全部出て行くような気分であった。それは、どうにかして積み上げて来、自分を構成している何かが、粉々になって流れて行くようでもあった。でも、その後どうなろうと知ったこっちゃなかった。
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