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【魔法少女レムリアシリーズ】Baby Face-26-

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 彼にかじりつき、声を限りに泣き叫んでいるのであった。実際彼に爪を立ててしがみついていた。まるで幼い八つ当たりに思われた。しかし、彼はそれ以上の強い力で自分を抱擁した。
 持ち上げられて移動していると判った。
 それは、王子に抱かれる姫では決してなかった。むしろ、夜間に高熱を発して父親に運ばれる娘であった。
 そんな状態であっても、彼にカギを渡してドアを開けさせ、ベッドに下ろされる際には靴を脱いだ。しかも彼が買い物袋をキッチンに持っていたことまでちゃんと見えていた。
 彼女は彼の一挙手一投足をじっと見つめていた。見つめてしまっていた。果たして彼はコートを着たまま振り返ると、彼女の目を見つめ、ゆっくりと歩いてきた。彼と彼女の間には互いの目しか見えず、それ以外の何も存在しないのであった。
 彼女は彼に両腕を広げて差し伸べた。
 対して彼は、彼女の前に腰を下ろし、膝立ちになった。
 そしてコートごと覆い被さるように抱きすくめられる。
 強く強く抱きしめられる。
 息が止まるかと思うくらいに。
 ベッドに倒れ込む。押し倒された状態だったが、すぐに彼は身体を反転させ、海洋生物ラッコが我が子にそうするように、自分の身体の上にレムリアを乗せ、強く強く抱きしめコートで覆った。
 真っ暗な中に二人の身体だけ。
 彼の鼓動が体表から体幹へと直接感ぜられる。
 今ふたり、身体の部位で触れ合っていない部分は無かった。背中には彼の腕が回り、足には足を絡めてあった。
 コートの中で彼我の空隙が暖かくなる。
 通り越して暑くなる。高温であり高湿であった。
 それは、この部屋では感じない熱さであった。どんなに暖房を強くしても、真夏であっても生じない熱さであった。
 彼の片手が、時折後頭部を撫でさすった。
 どれくらい、時間が経っただろうか。寝たのかも知れない。覚えていない。
 目の前にハンカチが出てきたので目元を拭った。
 

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