【妖精エウリーの小さなお話】けだもののそんげん-32・終-
誰の目にも触れないということは無い。
「何だろう。この虚しさは」
ナイアデスが人間サイズに身体を戻して言いました。
気付いたのです。この組織や工場をこうして破壊したとしても。
また同じ事を考える者が、マネする者が、必ず出てくるであろうことを。
私たちのしたことは、正しかったのか。
括られた男の一人がようやく正気に戻ったか、……最後、唯一の武器なのでしょう、ツバを吐き飛ばしてきます。
が、バリアをかけてあるので弾き返され己れの顔へ。
「……」
それは日本語で書けば「くそっ」という悪態ですが、日本語ではありません。
東洋系の顔立ちですが、異国の者のようです。
正しかったのか。自問への答えが垣間見えたような気がしました。
男達のいや増す恐怖。それは……あろう事かシャーマニズム文化圏の抱くそれ。
「日本って、花鳥風月の国、ですよね」
ナイアデス。
それは、異国語に対する彼女の認識の表出。
「ええ、だから、でも、それは私たちには手を出せない領域」
聞いています。“殺処分”された野良の犬猫、しかし慰霊碑があること。
知っています。食肉加工で屠る時、敢えて人の手で行うこと。無為に殺すのでは無いときちんと意識させていること。
だから食事の前には“いただきます”。
そんな国、日本。私の活動エリア。
それは、恐らく、本当は、幸せだったのかも知れません。
他のエリアに比して最も、悲しい涙を流さずに済んだのかも知れません。
動物だけじゃない。昆虫にも、子供が笑顔を見せる国。
別のヘリコプターが接近してきます。
「小屋の連中が出てくるよ。最も、観念してるけど」
ナイアデスが言いました。
「ならいいよ。もう、私らの出番じゃない。君たちもありがとうね。終わった」
動物たちは去るのを見届け、
私たちもその場から消えました。夜明けと共に。古来妖精の顕現に倣い。
けだもののそんげん/終
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