【魔法少女レムリアシリーズ】Baby Face-27-
視界が確保されたので彼の顔を見る。
「アップルティーでも作ろうかと思ったんだけど、全部投げちゃったよ」
彼はあっけらかんとした口調で言った。
良く来たな、また来たか、いらっしゃい……それは、彼がその都度変える、自分を迎えるセリフのトーンとリズムであった。
ただ、違うのは、彼はベッドの上に仰向けにあり、
自分が、その上に、完全に体を載せていること。
この世に生まれ出、母の胸に抱かれた幼子のように。
「ごめ……ありが……」
泣きすぎて腹膜が痙攣しているか、しゃっくりが邪魔して満足に言葉にならない。
彼は何も言わず、彼女を支えて起こし、ベッドに座らせ、コートを脱いで彼女に覆い被せ、キッチンに立った。
「どれが湯わかし用でどれが煎じる用だい?」
紅茶を入れる際のポットの使い分けのこと。
「ステンレスのと、ガラスのと……」
その、首をひねって問いかける背中に、見慣れた背広に、
彼女はこの距離にもどかしさを覚え、言葉を千切って素足で床に降り立つと、駆け寄って後ろからしがみついた。
しなやかで柔軟な、若い女の腕が、相原学の腰の部分に巻き付いた。
「会いたかった……」
相原学は少し驚いたようで、感電したように身体を小さく震わせた。
次いで、己の腹部でギュッと結ばれた彼女の細い左右の手先を両手で握り、
解いて開き、手を握ったまま向き直り、
少し身をかがめて目の位置を合わせ、彼女の目を見、
引き寄せて抱きしめた。
「お前が好きだ」
耳元から、相原学のそう言う声が聞こえてきた。
自分の顔より大きな、彼の掌(てのひら)が、自分の後頭部を優しく支えている。
彼から同じ意味の言葉を聞いたのは1年前の病院ベッド。
彼との出会いは2つ前の冬。空から突然船が降りて来て、国際犯罪組織に誘拐された少女を、「後を頼む」と託された。彼はどんなに面食らったことだろう。
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