ユカちゃんハテナ王国へ行く【2】
ユカは自分が連れて行かれるらしいことは理解した。ただ、誘拐と言うより、その“姫”と間違えられたとした方が良さそうである。閉じ込められはしたが、縛るとか、猿ぐつわと言った状況にはなく、何より、馬車の中はそれこそ絵本に出てくる姫の乗り物そのものだ。向かい合わせのソファみたいな椅子に絹張りの内装、天井の電球。
「ほっ!」
声が聞こえ、馬車が動き出す。ガタンとショックが来て、ユカは椅子から投げ出されて落ちる。
住宅街からクルマの多い道へ向かう。やたら速い。アパートがあっという間に小さくなる。
そして交差点へ。この交差点は信号がないので、渡る時はちょっと遠回りして横断歩道を。
なのだが、馬車は止まる気配無く、クルマの多い道へ突き進む。
ぶつかる!
「あっ!」
しかし、クルマは、まるで、立体映像のように、馬車の中をすり抜けた。
「え?」
これは、夢と魔法の世界の出来事。ユカはまずそう思った。
横断して道沿いに走る。しばらく行くと通っている幼稚園と、隣のお寺と、その隣。
そこは“帰らずの藪”。それは、大人向けの書き方をすれば禁足地と呼ばれる一角。管理がお寺だと言うことはユカも知っている。
その藪の前に男性がいる。燕尾服を着ており金髪碧眼。年齢はよく判らないが、自分のお父さんよりは年上っぽいものの、“おじいちゃん”という感じではない。
馬車は男性の前に止まった。
男性はアニメに出てくる魔法の国の執事、にそっくりだとユカは思った。そういう人は大体みんな同じような名前だった。何だっけ……。
馬車の扉が開いた。
「セバスチャン!」
思い出してユカは思わず言った。
「確かにセバスチャンでございます。姫、おいたが過ぎますぞ」
呆れたように、その男性は言うと、乗り込んで来、ユカの隣に座り、出せ、と言った。
ユカはハッと我に返る。今、逃げるチャンスを逸した。
動き出す馬車。
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