【魔法少女レムリアシリーズ】Baby Face-40-
「理由は聞くなと仰せなので伺いませんが、私どもとしても、何かあった時の言い訳を考えておく必要がございます。こちらの殿方と逃避行、と理解してよろしいでしょうか」
ジェフ氏はテーブル上のシャンパングラスを裏返し、ゴールドの炭酸飲料をとくとくと注いだ。泡が白く膜を作り、列車の揺れが新たな泡を作る。
「ええ、それで結構です。申し訳ありません。突然」
「いえ。殿下からはいつかチャーターを頂戴する、と伺っておりましたから。さて今回目的地は殿下の故国アルフェラッツと承りました。到着は明朝になります。必要な食料は積み込みましたが、寝台車が用意できませんでしたので、こちらの椅子でおやすみ頂かざるを得ませんが……」
「それで充分です。ありがとう」
「かしこまりました。では昼食の準備をさせます。ミスター、申し訳ありませんがパスポートを拝借」
その定期運行の観光列車もそうだが、列車長が国境越えに関する権限一切を有する。ちなみに、逮捕特権すら持つ。
相原はページを開いて氏に手渡した。
「ミスター、マナブ・アイハラ、ジャパン」
「イエス」
相原は頷いた。
レムリアは安堵の笑みを浮かべた。
「良かった。これで正規の出国スタンプが押される。そんなこと、この列車だからこそ」
ジェフ氏と目配せ。
「王女の権限、て奴か」
「ええ」
レムリアはテーブルの上で両の手を組み、頷いた。
正規定刻になり、留め置かれていた駅の外れから本線へと滑り出す。ジェフ氏の説明だとまずは快速列車の後を追いダラダラ走るが、途中からドイツ版新幹線“ICE”用の高速線に入り、限界ギリギリの高速走行でフランクフルト、ニュルンベルクを経由し、東欧を目指すとか。ハンガリー以東のダイヤは調整中。
「ランチですがアルコールはいかがしましょう……フィアンセさん」
レムリアはもちろん、相原も酒は飲まない。
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