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2014年10月

【理絵子の夜話】新たな自分を見つける会-03-

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 そういえば、この北村由佳は理絵子の力を知っているのであろうか。ウワサとしては校内広く知れ渡っているので承知しているであろうが。
 実際に所有しているのを知るのは自分、桜井優子、学年にいるもう一人の霊能持ち。但し、いずれも他言はしていない……。
 はず。
 はず、というのは、この娘がその霊能持ちに相談事をしていたと聞いたから。霊能持ちは今でこそ理絵子と仲が良いが。その当時は理絵子が勝手に敵意を持たれてぎくしゃくしていた。
 まぁ、バレてりゃこいつの口から出るか。
「お邪魔し……」
 ます、と言おうとして、大人の女の声が聞こえ、ボリュームを下げる。ええ必ず……では突然申し訳ありません。……その文言の並びから、田島綾は自分の家に電話していると判断した。終わるまで挨拶を待つ。
 玄関先から覗き込むと、北村由佳の母親であろう女性が受話器を戻すところ。
「ああ、由佳のお友達ね」
「お邪魔……します。田島綾といいます」
 首をすくめたくなるような威圧感、を田島綾は感じた。
「すいません、こんな時間に」
「それはこっちの台詞。さ、上がって」
 腕引き誘われるが、まず靴を脱がせろ。田島綾は靴を脱ぎ、一旦しゃがんでその向きを揃え、
 ……匂い。お香?
 L字型の短い廊下。左手に洗面・バスルーム。鏡の上に同様に梵字。鏡に映った自分の顔。ギロギロと監視するような目線と表情の自分に驚く。目線を外すように右手の6畳。
 仏壇……。
 違う。祭壇だ。田島綾は察知した。世界史の教科書に出てくるような神殿のミニチュアである。御札の宗教かどうか知らぬが“神々しさ”の演出ふんぷん。
 それは北村由佳母娘共通に感じる、例えば先程の威圧感に代表される何か、人を驚かしておいてケロッとしている何か、を裏打ちしている気がせぬでない。
 

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【魔法少女レムリアシリーズ】Baby Face-52-

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 珍しい列車は城壁内部で気付いた衆目を集めていたが、降り立った客が彼女と知るや、恭しい会釈が返り、人々は散るように去った。日本で皇族方が市中にお出まし、となると数多携帯電話のカメラが向けられ、となるが、比してかなり雰囲気が異なると書いて良い。
 改札はさながら牢屋の鉄柵と扉である。国境でもあるから当然だが物々しい雰囲気は否めない。改札係員が彼女の姿に制服姿で直立不動。
「この方はわたくしの客人です。諸手続は城内で行います」
「御意」
 しかし言葉の割には目に軽侮。相原はそれがよくある“有色人種への目線”であることに気付く。
 駅前へ出る。石畳の車寄せロータリーになっている。中央部に芝の植わった噴水。但し、時節柄、芝は枯れ草色。
 道は相原見渡す限り石畳であり、無粋なアスファルトの色はない。メインストリートはゆるく右に曲がりつ上り勾配を描いて伸びる。その道の広々と、視界をぐるりと囲む城壁の圧迫感。
 建造物はレンガに漆喰、スイスの山里という風情。まぁ地勢上も近く、外れた観測ではあるまい。高層建築は見当たらず、いずれも3階建て未満。城壁を考慮した景観保護からの高さ制限だろうか。
 相原はまとわる視線に気付く。係員と同じく異邦人に対する目線であり、特段超感覚の類いを持たぬでも判る。遠巻きする彼らの肌の色は白く、瞳はブラウン、髪は金或いは赤。欧州系と書いて良く、対しレムリアの外見体格はアジアそのもの。ここで王家と言われても違和感の方が強い。末期エジプト王朝がマケドニアやローマの影響を受けていたのに近いが、類例であるモンゴル大帝国の残滓であろうか。
 人々が歩道を空けたので歩き出す。
「国家国体はこの中だけ。人口1200。主な産業はスイスとかその辺の精密加工の下請け、魔法グッズ。国外への出稼ぎ労働も当然多い。まぁ、王家養って行ける状況でも時代でもないよ」
 

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【理絵子の夜話】新たな自分を見つける会-02-

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 ただ。
「え?今から?」
「うん、できれば。自分……混乱しちゃって、混乱が止まらなくて、誰かに話し聞いて欲しくて、そういえば田島さん金曜日ここ通るなあって」
 それは行動監視されているようで多少不気味な気はするが、まぁ北村宅アパートの前であることは確かである。行き帰りに通るんだから見えもしよう。
 そして、その、“混乱した付き合い方”とやらで理絵子に迷惑が掛かるのは、友として避けたい成り行き。
「い、いいよ。その代わり家に電話させて。晩御飯遅れるからさ」
「それだったらウチで食べて行くとイイよ。オカンに電話させるから」
 は?田島綾は率直に疑念を抱いた。
 一方でこの親にしてこの子ありとも言う。理絵子はこの娘の親は知らぬはずである。
 自分が見聞きし、理絵子の耳に入れておくのは有意義かも知れぬ。
 殿様に仕えの忍者か。
「何してんのー?」
 電子メールの顔文字そのものの笑顔で、北村由佳はアパート階段上から呼んで寄越した。
 自分が悩んでいる間にとっとと移動完了している。もう決定事項、ということか。だったら問うなとも思うが。
 まぁ、メシの一食くらいなら。田島綾は上がって行った。
 サビの浮いた外付けの鉄階段がカーンコーンと音を立てる。
 目線が上がり、広がる澄んだ夕空。稜線近くに輝く金星。
 ……とは、理絵子の知識から。
「こっち」
 呼ぶ声にヴィーナスから顔を戻すと、開かれたドアが見える。
 ……防犯のぞき穴スコープの下に“御札”の存在を認める。梵字だろうか読めない文字列ピラり一枚。何か宗教。
 最も、この異字自体は、その理絵子が密教の資料を持っているので見慣れていないわけではない。これは、文芸部の作品に、超能力を扱ったファンタジー系のものが多いのと、
 理絵子自身、そういう特殊能力の持ち主であるためである。
 

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【魔法少女レムリアシリーズ】Baby Face-51-

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 アルフェラッツ王国。レムリアの故国。
 欧州の“インターナショナル・ステーション”や“セントラル・ステーション”と名乗るそれらは、かつて王権の名残もあろう、豪壮な出で立ちである場合が多い。
 しかしアルフェラッツの場合、様相を異にする。中世以降の城郭都市がそのまま独立国家として存続しているものだが、鉄道網が敷かれ、欧州各国を列車が結ぶようになるのに伴い、壁の一部に駅を作り込むという対応を取った。城壁をくりぬき、線路とプラットホームを配したのである。全体が大理石躯体に覆われており、照明が無ければ中はほぼ真っ暗である。しかも線路は単線の本線から側線が一本分岐しているのみと極めて簡素だ。これらの構造はアルフェラッツに訪れた王侯・外交使節の専用列車が“長居”不可能・不要であることを象徴する。
 レムリアはその辺の手配をすべきであったことに今更気付いた。現状、国として唯一の駅であり、日に数本の停車がある。次のアクションは現状見えず、この列車を留置しておくことはできない。
「あの……」
「大丈夫です」
 ジェフ列車長の曰く、この復古車輛群は個人所有。普段はオランダの港町、フーク・ファン・ホラントの引き込み線に留置。他、クルーズ列車として欧州全体に赴くことから、各国の国有・私有鉄道と契約し、あちこちに“常宿”がある。
 ジェフ氏は以上説明し、制服胸ポケットの帳票をめくり、
「この後はブカレストで昼間滞泊(たいはく)、翌日オランダへ戻る行程です。その間ご用あれば対応できますのでお呼び下さい」
「はい。ああ、良かった」
 レムリアは真っ直ぐ答えた。
「ご心配ありがとうございます。では、また機会があれば」
「お待ちしております。では、どうぞ行ってらっしゃいませ旦那様」
 ジェフ氏に送られてプラットホームに降り立つ。
 

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【理絵子の夜話】新たな自分を見つける会-01-

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 田島綾(たじまあや)は黒野理絵子(くろのりえこ)の友人である。
 綾自身は理絵子が自分を親友に分類してくれているであろう、と自己分析している。家は近所。幼稚園から一緒。クラスが離れることはあったにせよ、行き帰りはいつも一緒。小学校高学年からの部活も一緒で、現在は中学校で文芸部。
 ただ、差異があることも認識している。理絵子は美少女の誉れ高く、常時学級委員であり、成績はトップ当然。最もそれは幼い頃から見えていた傾向であって、それに基づいて羨んだり嫉妬したりということは無かった。
 つもりである。つもりであったが。
 別の差異を感じ始めた昨今である。落第いわく付きの桜井優子(さくらいゆうこ)という女の子を孤独の淵から救ったのは、自分自身も彼女と仲いいからいいとして。
 北村由佳(きたむら・ゆか)という娘だ。何でこんな自分勝手な鼻つまみに肩入れするのか。
 いや肩入れというのは正しい表現ではないかも知れぬ。文芸部のプライドが解析を要求する。厳密には理絵子が他愛ない話題で雰囲気を作り、そこに北村由佳の方が便乗し、失礼ギリギリまで迫り、それに柔らかく応じているというのが正しい。
「田島さん」
「わっ!」
 だから、塾からの帰り道、そんなこと考えている最中、その北村由佳に呼び止められた折りには心底驚いた。
「あ、ごめん、脅かしちゃった?」
 知ってて故意に。装った心遣い。
 ……に、見えるのは邪推か。
 それでまたこのタイミングで夕空を行くカラスが鳴いたり。
「ちょ、ちょっとね。……何?」
「その……相談、あるんだ。黒野さんのことで」
「何で私?」
 本人に訊きゃええやん。頭脳明晰一発回答が来よう。
「その、何て言うか、黒野さんとの付き合い方、って意味でさ……」
 そういうことか。それなら理解できる。分析の通り、現状二人のコミュニケーションは北村由佳が押し込み一辺倒。

 

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【魔法少女レムリアシリーズ】Baby Face-50-

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「野暮を訊いた」
「別にいいよ。恋ってしたこと無いから。ああ、これだなって正直判らなかったもん」
「でも告白されたことはあるんだろ?いつぞや横浜からはるばる自転車漕いできた男の子いたじゃん。お前さんほどの美少女がモーション掛けられへんとは思えん」
 レムリアは少し胸が痛んだ。その彼は、それこそ相原の目の前で、自分に“振られた”ことになるからだ。
「彼の場合、率直に思ったのは、彼にあなたと同じ対応は無理だろうなって」
「まぁ。普通、いちゃいちゃベタベタしたいもんだな。男ってのは。それこそちゅーして脱がして押し倒す」
「そう。でもそこへ電話かが掛かってくる。どこにセックスの最中地球の裏から人命救助に呼び出される女の子がいますかって話。しかもそんなことを繰り返す。人格として好きとか嫌いとか以前にそれ耐えろってムリでしょ。だから、他の男の子もね。傷つけただろうなと思ったよ。でも今思うのは、なるべくしてなったんだよな、って」
「俺も意図してそういう風にしたわけじゃ無いもんな。なっちゃった、だからな」
「不思議だね。魔女が言うセリフじゃ無いけど」
「むしろ魔法じゃね?求められてこうなってるならむしろ光栄だわ。工学系会社員の言うセリフじゃ無いけど」
 二人は笑顔を交わした。
 大丈夫、二人やって行けるし、もう離れない。
 ディナーが終わったついでにジェフ氏に訊かれる。
「アルフェラッツ到着は明早朝になりそうですが、いかがでしょう、そちらコンパートメントスペースに椅子集めて仮の寝台作れますが。毛布も多少ありますし、暖房はいくらでも掛けられますから仮眠程度なら」
「じゃぁ彼女はそれで」
「だーめ、一緒に寝て」
 レムリアは両手を伸ばした。
 抱いて、って奴だ。凄いこと言っていると自覚してるが、
 この腕の中にいて体温感じていたい。
 それが一番安心できるから。
「As you wish(仰せのままに)」
 ジェフ氏は胸に手をした。
 

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【魔法少女レムリアシリーズ】Baby Face-49-

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 “月は誰にでも見ることが出来る。月は誰をもそっと見つめる。そんな気持ちを知った時、初めて一人前と言える”……親に言われたこと。
 この気持ちは、その認識は。
 月の力が我が身に宿った。文字通り、月経と共に。イコール、逆に魔法は月の位相から解放(作者註:月に左右される立場が心から体へ入れ替わったらしい)。
「おめでとう、と言っておけばいいかな?」
「ありがとう」
 そして、列車は夜を迎える。途中の駅で食材を手にしたシェフ数名が乗り込んで来、二人きりのためにディナー。
 フレンチフルコース。
「これの前に二人で食った晩飯は“もんじゃ”なんだぜ」
「いいじゃん。ねぇ、もんじゃウチで作ってよ」
「ウチって君んち。……待て、アルフェラッツ王室でってことか?」
「テーブルに鉄板は用意できると思う」
「そういう問題じゃなくて」
「家族、になるんだし」
 すると、相原は小さく笑った。
「承知した。買い物して帰らないとな」
 ワイン代わりのグレープジュース。
 フレンチのコースは少しずつ間を置いて料理が出てくる。
 話題が無いと間延びして感じるが、逆ならそうでも無い。なお、二人の思い出話であり、委細は略す。
「逆に訊くけどさ」
 相原はデザートとコーヒーが出てくる間を持って、言った。
「ん?」
「君はいつから俺のこと意識してたのさ」
「さぁ」
 率直な答え。
「さぁ、て」
「強引に押しかけて、ヤバかったかなぁって気になって会いに行って、また強引に押しかけて、大切にしてもらって、今度は誘われて、それから会うのが当たり前になって、半分生活がそっちに移って、一緒に過ごす時間が長くなって、一緒に過ごしたいんだと判って、一緒になることを約束しました。さてドコで区別付けますか?」
 レムリアは指折り数え、笑顔で訊いた。
 

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ユカちゃんハテナ王国へ行く【18・終】

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 目が覚めると心配顔のお母さんの顔が自分を覗き込んでいた。
「あ、ユカ!気がついたのねユカ!」
 抱きしめられると頭ががんがん痛い。
「おか……」
「飛び出す子がありますか……道路は庭じゃないよって、いつも言って……」
 お母さんの説明によると、自分はアパートから飛び出したところで自転車にぶつかった。
「はね飛ばされたけど、ちょうど、本がクッションになったみたいね。さすが天使の本だわ」
 その教会から借りた絵本のような図鑑「てんしのひみつ」。
 あれ?持ってたのこれだっけ。
「ぼろぼろになったから弁償しないとね。あと、お母さんも反省してるわ。30秒1分あなたの質問に答えたからってどうということはないのに。何が訊きたかったの?」
「ミカエルは大天使(アークエンジェル)で下から2番目なのに、なんで『天使長』って一番偉いのかって……」
「あら難し……」
「うん、でもいいんだ。分かったから」
“人に近い姿をした”天使たちを束ねるだけ。
 そして多分、天使たちは“はてのくに”が見えないみたいに、本当はいるけれど見えないだけ。
 ユーカ姫のように、見えない敵と戦っている。ううん、ひょっとしてユーカ姫が本当は天使なのかも。
 卑弥呼も本当は天使なのかも。
 お話が書けそう。
「ユカ、大丈夫?」
 急に黙り込んだせいか、お母さんが訊いた。
「ううん。変な夢を見て、思い出してた」
「あら怖い夢?」
「怖い。うん、怖いよ。けど、楽しい夢。一生懸命勉強しなくちゃ怖いことになるんだって夢。知らないと分からないんだ。言われたとおりでも秘密にされたら分からないんだ。いつも本当のことばかり言ってるとは限らないんだ。だから自分で調べること大事」
 ユカの言葉に母親は少し瞠目し、そして緩やかに笑みを浮かべた。
「そうね」
 
ユカちゃんハテナ王国へ行く/終
 

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