【理絵子の夜話】新たな自分を見つける会-06-
田島綾は迷った。義理だ、と言えば、現実を突きつけることになる。されど、それはこの母娘双方を否定する。
「つまりあなたはクラスで孤独を感じてるわけ?」
こういう言い方に変えてみる。ああ何で気を遣ってるんだろうあたし。
すると、問いに対して北村由佳はうつむいたまま頷き、ポタポタッと音を立てて涙のしずくがこぼれた。
嗚咽。
「ごめ……ごめん……これで飯食えとか……ムリだよね」
何だろうこの面倒くさい娘。
「あの……そう思うんだったら、それこそりえぼーに訊いたりとかした?」
「怖い」
何がじゃ。声に出すまでしなかったが、代わりに眉根を潜める自分を田島綾は自覚した。
「……黒野さんにまで否定されたら潰れちゃう」
まぁそりゃそうだろう。でも理絵子はそんなこと絶対にやらない。ただしそれは、理絵子がこの面倒くさいを認めていることを証ししない。親しくしつつも防空識別圏は保持する。
返す言葉を考える間にスープをいただく。
……その葉っぱが少し苦い。
「だからね」
北村由佳が口を開いた。
田島綾は北村由佳を見た。今度は自分が発言するターンなのでは?
「このヨガとか、自分を変える活動を始めたんだ。彼女に、黒野さんに、ちゃんと、友達って言ってもらおうと思って。それってすごいことだと思うから」
その発言は田島綾の脳内に警報を鳴らした。自己啓発と称する何かや、新興宗教の勧誘の手口で良く聞くパターン。
「あ、今警戒したでしょ。変な団体かと思って」
「うん、思い切り」
田島綾はそう返した。見透かされたのは悔しいが、事実だし、そういうのはお断りという明確な意思表示でもある。
に、しても、不思議なパーソナリティの娘ではある。泣きはらした顔で得意げに笑っているのだ。そして、何故か、不快。
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