【魔法少女レムリアシリーズ】Baby Face-60-
父王は頷き、しばし、相原の目を見た。
相原は応じて目を合わせ、一回、まばたき。
一般に国王を異国人が真っ正面から見返すなど失礼千万に値しよう。
しかし今、相原は、男として、父王と相対している。
父王が口を開く。
「異存は無い。既に貴殿は我が娘の夫たる資格を備えている。即ち、娘を女として、妻として、守れる存在でいられるかどうかだ。その点、貴殿は幾度となく娘の命を助けている。しかも、自らの命を賭してまで。最高の存在と絶賛を惜しまない」
相原は「おっ」と声こそ出さなかったが、そんな形に口を開き、応じて目を見開いた。
すなわち、父王の評価は彼に取り望外の賛辞であった。
「恐れ入ります」
座ったまま、頭を垂れ、礼。
「だから……これは単なる個人的興味に過ぎないが、差し支えなければ教えて欲しい、貴殿の父たる方は一体どのような」
「既に他界しました。証券会社で取引用のオンラインシステムの管理をしていました」
相原の言葉を聞き、女王と父王は一様に目を見開いた。
レムリアは『交通事故で死んだ』とさらっと一言いわれたことを思い出した。
「なるほど……」
父王は、ゆっくり、深く、頷いた。
次いで思い出したように。
「ご兄弟は?」
「ありません」
「では貴殿の母君は事後お一人になられるのでは?」
「一国一城の主になって初めて男と称せ、が母の口癖です。しかし、生きている限り母であり息子です。幸い現代はネットワークでいつでもコミュニケーションが取れます。そして日本では、夏と冬の長い休みに親元へ遊びに行くのが習わしです」
父王は再度頷いた。
「承知した。貴殿が娘と一つ屋根の下で暮らすことが他の不幸を招いてはならない。そう思ってお尋ねしたまでだ。であれば問題ない。以上だ。さぁメディア……幸せになりなさい。そして、お前が思う幸せを、より多くあまねく、月の光のように、届けなさい。そのための地として、東方の幸多き国、日出る(ひ、いずる)国の一員となることは、まこと相応しい」
「はい、お父様」
それは、本来、親との別離。
しかし不思議と、涙は感じない。
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