天使のアルバイト-001-
1
試験中である。問題は唯一で以下のよう。
問題・庇護者が次のような仕草を示した場合、それは心理的にどんな状態にあるか。また、どんな示唆を与えればよいか。理由を付して述べよ。
述べよったって……お気楽に試験を済ませようとしていた彼女は、困惑と不機嫌を、ため息に載せて、そっと吐き出した。周囲からも似たような心理を感じる。事前の情報では教科書ベースの選択肢問題、対して真逆の出題であり、裏を掻かれたと言って良い。詰め込みもヤマ掛けも全部吹っ飛んだ。
かくて彼女は書くべきこと見つからず筆記具を机に転がす。
午後の教室。窓から入る日射し柔らかく、温度は適切。眠るのに丁度いいという表現が使える。生徒として椅子にあるのは、いずれも白い薄手の衣服を付けた少女達。やがて、そこここから、筆記具を踊らせる硬質な音が聞こえ始める。
試験監督は二名いる。いずれも年齢的には大人であり、一人は男性、一人は女性。少女達と同じく白い衣服をまとっている。女性が教室の隅から全体を見回し、男性が机の間を歩いて見回る。
面倒くさい。彼女は考えるのをやめて、良からぬ行為に思いを巡らす。
要は答えが判ればいいのである。どうせ試験なんかやったって、人間さんは千差万別。必要なのは実践ベースであり、覚えたことをここに書いても、まず間違いなく役に立たない。習った通りには行かないのだ。大体、世の中教科書通りに事が運ぶなら、私たちなんか不要だろう。
だから。
彼女は一瞬ならと思い、まばたきに見せかけて瞼を動かした。
所要0.3秒とか。その間、彼女は知識と経験が豊富な意識を垣間見る。具体的には“思い出す”という行為を考えて欲しい。視覚を通して記憶された映像が数多、意識に並ぶであろう。同じ感覚で“自分以外”の意識を見たのである。
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