天使のアルバイト-003-
肩をすくめ、そのまま暫く監督教官について歩く。彼女が先程、机にいながら覗き込んだ教官室を行き過ぎる。もちろん、こちらを見る怒りの目がある。
廊下を右に折れ左に折れし、明らかに教室の前とは雰囲気の違う一角。
マホガニーの大きな扉。
「どうぞ」
ノックする前に中から声があった。ゆったりとした女性の声で、典雅な趣。
「失礼します」
監督教官が扉を開く。しかし、彼女は顔を上げて扉の中を見られない。
「エリアさん」
典雅な声が彼女を呼ぶ。但しその口調は堅い。
「はい」
「わたくしはあなたを呼んだのですよ。お入りなさい」
その声音、トーンは優しいが、雰囲気はきつい。
「……はい」
彼女は顔を伏せたまま、おずおずと扉の中へ足を踏み入れる。ふかふかのカーペット。
彼女を残して、監督教官が退出する。カチャンという軽いメカ音がしかし驚くほど大きく聞こえ、扉が閉まる。
大きな部屋に二人きり。
すると窓際、大きな机に座する女性が立ち上がる気配あり。
彼女は半ば、怖々と、顔を上げる。
流麗な黄金の髪の毛をなびかせた女性がそこにいる。“異国風”とでも表現したい顔立ちであり、王妃という言葉を思わせる清さ気高さを周囲に漂わせている。肌の色は透き通っているのかと思うくらい儚く白く、身にまとった薄いシルクの装束から、細く長い手先が覗く。
机の位置から女性が近付いてきた。
「エリアさん」
呼ばれたが、女性のまっすぐな目線を彼女は思わず避けてしまう。返事も、したつもりだが、声にならない。
「わたくしは、あなたを叱ろうという意図で、ここに呼んだのではありません」
予想外の言葉。彼女は思わず女性に目を戻した。
しかし、女性の目は(少なくとも彼女には)、刺さり込んでくるような糾弾の眼差しに感ぜられる。彼女は再び目を伏せてしまう。
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