天使のアルバイト-005-
そして白い物体のそばに立つ。彼女は体力がある方ではないようだ。僅かな距離でも肩で息をし、胸を押さえてちょっと咳き込んでから、白い物体を覗き込む。
「やっぱり……」
彼女は呟く。それは白い……服をまとって横たわる。
少女。同年代か少し上。
「うわぁ……」
彼女は目を見開き、横たわる少女を見る。その少女は美しい金色の長髪の持ち主である。
顔立ちはどこぞの“姫君”かと思わせる典雅で高貴な趣を持ち、息を呑むほど。しかし髪の色の割に欧州系という感じではなく、渋谷あたりで見かけても不自然ではないと書けようか。茶髪のモデル系美少女のイメージに近い。そして……シルクだろうか、その纏った白い衣服は、住宅街の灯火の中でわずかに光沢を放ち、豪奢そのものである。言うなれば劇中のシンデレラが何かの拍子にこの場にドサッと落ちてきた、そんな感じか。白い衣服をフワリと広げてそこにいる様は、さながら純白のユリの花。
「不思議な子……」
彼女ため息と共に呟いた。しかしすぐにハッと思い出したように。
「ねえ」
姫君の如き少女に呼びかける。
姫君の如き少女に反応なし。そこで彼女はしゃがみ込み、少女の肩を掴んで揺らす。
「ねえってば、聞こえる?」
姫君の如き少女の口から、吐息に近い、小さな声が漏れた。
「起きて。こんなところでそんな薄着じゃ風邪引いちゃう」
生きていると判るや、彼女は姫君の如き少女を激しく揺らした。電車が通り、呼びかける声を轟音がかき消す。行き過ぎる窓々から明かりが漏れ、二人を古い映画のように点滅させて見せる。
「うるさい……なあ」
姫君の如き少女が呟き、不機嫌そうに表情を歪ませる。意識は不明から引きずり出された。
大きなくしゃみ。
「ホラ、風邪引いた」
姫君のような少女……エリアは目を開けて半身を起こす。そして。
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