天使のアルバイト-006-
言葉が出ない。状況が判らない。ここが川っぷちで、傍らに見知らぬ女の子がいて、
寒い。
もう一度くしゃみが出る。見知らぬ女の子がジャージを脱ぎ、自分の肩に掛けてくれる。
「……ありがとう」
エリアはとりあえずそう答え、ジャージの上着を抱きしめるように身体にまといつける。
日本語が喋れる状態と後追いで気が付く。思惟も日本語で紡がれる。すなわちここは日本。
寒い。恐ろしいくらいに寒い。
にわかに感覚神経が活動し始めたかのようである。秒単位時を追うごとに寒さがいや増す。
ガチガチと勝手に歯が鳴り出し、身体がひっきりなしに震えて止まらない。
自分の身体が悲鳴を上げているのが判る。頭に“がんがん”と擬音を付けられる周期的痛みがあり、熱を、温かいのものを全身が切望している。
ただ座っているだけすらも苦しい。
この一連の未経験の不快感は何なのか。エリアはそれが“肉体”の属性であることにようやく気付く。自分は今“人間のように”生物体としての肉体を持ち、ここにおり、この女の子に存在を発見されたのだ。
この急激な変化の意味するところは何か。一体自分の身に何が起きたのか。エリアは探って発見を試みる。感覚を研ぎ澄まして…。
……働かない!
衝撃と共に認識する。それは“心で全てを感じ取る能力”、肉体の属性ではなく、意識が所有する能力である。人間の概念で言うところのテレパシー。それは、あらゆる情報が、“波無き湖の波の音を聞こうとする”、心理状態によって得られる、はずである。
それが一切機能していない。
あらゆる感覚が鉛のベールをかぶせられ、極めて鈍くなってしまっている。普段の10分の1以下。いや皆無だ。何も感じ取れず、まるで闇夜で霧にまかれたよう。ただ感じるのは、頭のズキズキと心臓の鼓動、血圧上昇による頸部の周期的圧迫感。
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