天使のアルバイト-009-
「しっかり掴まっててよ……店のケータイ持ってくりゃ良かった……うわ!軽い!赤ちゃんみたい」
由紀子は驚き歩き出し、一歩一歩踏みしめるようにして、ゆっくりと堤防を上ってゆく。
エリアは、由紀子の背中で、涙が流れ出すのを感じながら、華奢な身に体重を預けた。今、自分は、人間の女の子に背負われてる。人間みたいに、高熱を発して。
初めて会った相手なのに、今できることは、彼女に頼るだけなんて……。
情けなくて、惨めな気持ちが、涙をどんどん溢れさせる。
「ありがとう……」
エリアは、どうにか、それだけ、絞り出した。
後は、良く、憶えていない。
3
エリアは“人間的”な眠りをしたことがない。
生命体の体を取る時、応じて休みは要するが、いわゆる居眠りを時々するだけで事足りるからだ。しかも、仲間内では眠る彼女の方が珍しい位で、全く眠らない者もある。そもそも身体自体がタンパク質の集合体ではなく、肉体的要因で休む必要がないからだ。
だから、布団と枕の寝床で目覚めた時には心底驚いた。仰臥状態というヤツだ。
「お目覚めかい?」
たっぷりした体格の中年女性が自分を上から覗き込んでいる。状況が今ひとつ把握できない。何がどうやら……。
「あの……」
「起きちゃダメ。あんた夜露でびしょびしょでね。失神してるし熱も40度あった。お医者に来てもらってね。入院する必要はないというからウチで預かった。まるまる2日寝てたよ」
言われて、記憶が甦ってくる。そういえば女の子、あの由紀子という名の娘の背中で……。
ここは彼女の家か。
「由紀子ちゃんは」
「学校行ってるよ。真っ昼間だもの。あんただって本当は学校に行ってる時間でしょうが」
学校……エリアは自分の失敗を思い出し、目を閉じた。
瞼の裏が熱くなる。後悔と懐かしさ。
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