天使のアルバイト-011-
気が遠くなる。悲しくなる。どうやって……その後は?……浮かぶ思いはそればかり。
涙も出たかも知れない。
頭まで布団を被り、潜り込む。
そしてそのまま、いくらか、うとうとしただろうか。
「ただいま~」
聞き憶えのある女の子の声。
由紀子ちゃん。
エリアは少し安堵を覚え、布団の中で半身を起こす。襖の向こう、由紀子ちゃんが走ってくる方へと目を向ける。慌てたようなドタバタとした足運び。ちょっと転ぶよと言う母親の声。
襖が開いた。
「目が醒めたんだって?良かった」
肩で息をしながら、ブレザーの制服に身を包んだ由紀子が入ってくる。そして、エリアのそばにぺたんと座り、顔を抱きしめられる。
「良かった……。本当に良かった……。お母さんたら、お金がないからって、入院させてくれないんだもん……」
エリアが健康保険の仕組みを聞くのはずっと後の話である。
「ずっと心配で食欲もなかったんだよ…。あなた、熱全然引かないし……時々うわごと言うし……」
「ごめんなさい……」
エリアは戸惑いながら、とりあえずそれだけ言った。いわゆる“病気”の状態を経験したことがないせいもあるが、ここまで誰かに心配されたことはない。
「迷惑……かけてばっかだね。突然河川敷に落ちてるし、病気になるし……」
申し訳ないような気持ちと、しかし、くすぐったいような嬉しさ、ありがたさが同居している。結果、表情筋は笑みを作った。“はにかみ”という奴だ。
ありがとうという言葉が自然に浮かぶ。誰かに気を遣ってもらうというのは、こんなにも、不思議で、暖かな気持ちをもたらすものか。
「いいよ、いいよ、許す。とりあえず治ったんだから。さぁ、治ったら食べなきゃ……。日本の料理、食べられる?」
「え?」
エリアは由紀子を見る。言われている意味が判らない。
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