天使のアルバイト-012-
「あれ?あなた外国から来たんじゃないの?ブロンドだし……瞳もどっちかって言うと茶色だし……」
「ああ」
由紀子の瞳に映った自分を見、ようやく合点が行く。自分の風体は日本人離れしているのだ。まぁ、確かに、異国は異国ではある。
「それなら大丈夫。それが証拠に日本語ぺらぺらでしょ。……ごめんなさい、お食事いただきます」
エリアは申し訳なく頭を下げた。現状、自分ではどうにもしようがないのだ。悔しいが仕方がない。自分から“力”を取ったら、単なる無能なのだと痛いくらいに思い知る。そして、リテシア様は恐らくそこまでお見通しであっただろうとも思う。要するに天上の自分は、いわゆる“あぐらをかいていた”のだ。
「ん、判った。待ってて」
由紀子が立ち上がる。
その後ろ姿を見送りながら、エリアは、またぞろ初めての“肉体感覚”の存在に気付く。
それは胃の辺りのもぞもぞ動く感じと、その胃を満たしたいという欲求。
“空腹感”であるとようやく判る。
同時に、これで幾度目だろう、自分は本当は、という……それは傲りと書いて良いかも知れない……認識が頭をもたげる。自分は今、肉体の、人間の属性を全て備えている。その代わり、天上における精神だけの状態がもつ特性は本当に全て失った。
これからどうしよう。またそこに考えが行く。暮らすって、一体、どういう……。
襖が開いた。
折り畳みの小さなテーブルを持った由紀子と、お粥の小鉢を持った母親。
テーブルがセットされてお粥が置かれる。由紀子が肩にはんてんを掛けてくれる。
「あの……何と言っていいのか……」
これも何度目だろう。どうもすいませんしか思い浮かばない。
「いいよ『いただきます』で。あとでまた来るから」
由紀子はウィンクして言うと、母親と共に部屋を辞した。
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