天使のアルバイト-013-
「いただきます」
一人呟き、お粥に箸を付ける。個体の食物を口に入れるなんて、前回はいつのことだったか。
今後はこれを自分で稼いで、作らなきゃならない……。
気が滅入る。それ以前に、彼女と同様、学校に行く必要があるのでは。
人間の、女の子の、生活。
既に守護者として認定され、任に着いた仲間達の言葉をつないで想像してみる。まず成長。苦しんで、努力して、迷って、悩んで、楽しんで。
恋をして。
そして……就職する?人間として?
結婚して、家庭を持つ?
果てしないかの如き道のり。
箸が止まって途方に暮れてしまう。一体どうしろと……。
『同じ場所に住む人たちの協力のみで……』
判らない。
悩むと埋没するだけと知り、エリアは首を左右にして振り払う。今はいい。とにかく、“人間”なんだから、病気の後は食べた方が今は良い。
10分後。
「入るよ~」
由紀子が入ってくる。ガラスの器に擂りリンゴ。
「はいどーぞ。フルーツ苦手じゃないよね」
由紀子が器をテーブルに置く。
エリアはリンゴに手を付ける前に由紀子を見る。まだ、自分について、この母子に何も言っていない。人間世界世間一般において、それは恐らくは大変失礼。
「あの……」
「ん?」
とは言え、何と切り出せばいいのか。
「私の……ことなんだけど……」
我ながら変なセリフ。
しかし由紀子は意図を理解したのか、ニコッと笑った。
「ああ、大丈夫、警察に言ったりとかしてないから」
「え?」
「家出してきたんでしょ?さもなきゃハダシであんなとこにいない。親とケンカしてその勢いで靴も履かずに……違う?」
小首を傾げて尋ねる由紀子を、エリアはまばたきせずに見つめた。
良くそんな風に考えられるものだと思う。
そして、それは都合の良い誤解。ただ、当たらずとも遠からじ。
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