天使のアルバイト-028-
プイッと横を向く。すると父親がテーブル越しに腕を伸ばして来、そんな由紀子の頭をゴシゴシ撫でた。
「まーまー、由紀子も可愛い」
「取って付けたように言わないでくれる?誰の遺伝子だと思ってんの?」
「難しいことお父さんわかんなーい」
由紀子は父親の缶ビールをひょいと取り上げた。
そこでエリアはちょっと驚いたように由紀子を見た。
まさか……飲むの?
「こら、由紀子!」
否。ビールは由紀子から母親へリレー。
「愛のプレゼント……らしいよ」
「あらお父さんありがとう」
母親がビールを全部飲んでしまう。
エリアは可笑しくて口元を緩ませた。まるで漫才である。しかも意図して面白おかしくしようというのではなく、日常茶飯事というか、自然にこうなる、という流れを感じる。
「毎晩こんなことしてんの?」
エリアは目尻に出てきた笑い涙を拭いながら、由紀子に訊いた。
「おもちゃのオトナ」
由紀子は父親を指差した。
「そう、ボクちゃんいじめられるの。このふたりスケ番なの」
父親がいじける真似。
「ふっる~」
由紀子と母親が同時に声を発し、父親のスケ番なる語彙の古さを責める。ちなみに女子の不良生徒を言う語で、1980年代に使われたであろうか。
すると。
「仕返し!」
父親が箸を伸ばし、由紀子のおかず……鳥の唐揚げを簒奪する。
そのまま食べてしまう。
「あ、ひどい。児童虐待だわ。警察に訴えてやるんだから」
由紀子、そう言って残りの唐揚げをひょいひょいと口の中に確保。
目一杯頬張ってそのまま喋る。
「……!……!」
母親がため息。
「何言ってんだか判んないよ。ほら。バカやってると冷めちゃうよ。早く食べな」
母親は立ち上がり、空になった自らの食器を重ねて持ち上げた。冷静な発言はこの場を切り上げるかのよう。
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