天使のアルバイト-031-
「開店8時。今は7時45分。15分前には店に入る。着替えて手洗いして朝礼……みんなに紹介したいしさ」
「あ、はい、判りました」
もう、か。エリアは思ったが、何も今日一日空ける必要はないのだ。すぐに頭を切り換え、足早な店長を追って、半ば小走りしながら店の中へ入る。
振り返ると母親が手を振り、そして後ろを向いて帰って行くところ。
頼れる人はもういないのだ。エリアはそれに気付くと、ちょっと心配しながら、それでも気を引き締めた。
7
貸与された制服は、サーモンピンク地のワンピース型。“研修中”と書かれた黄色い腕章を付け、エリアは店に出た。
開店前のわずかな時間を用い、大ざっぱなオリエンテーションを受ける。この“スーパーマーケット”なる商店形態が、客が自身の手で品物をカゴやカートに取得、レジで精算するシステムであること、それ自体は知識として知ってはいた。
しかし。
「君……沢口の奥さんの口ぶりからすると、あまり世間慣れしてないお嬢様って感じなんだけど、こういうところで買い物したことは?」
店長が訊いた。ウソついても仕方がないので、「ありません」と答える。
「なるほどな。そうすると今君はお客さんの立場でモノが見られるちょうど良い状態にあるわけだ。何か買いたい物があるとして、パッと見て何がどこにあるか判るかい?」
言われて見回す。通路ごとに、精肉、総菜、等のカンバンが天井から下がってはいる。しかし例えば、今目の前にある“ダシの素”は、“乾物”の通路にあり、おそらくパッと見てここにあるとは判るまい。
「モノによっては誰かに尋ねたくなりますね」
エリアは言った。店長は頷いて。
「そうだな。そこで仮に君がお客様に尋ねられたとしよう。判るかな?」
「いえ。私自身誰かにお聞きしないと」
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