天使のアルバイト-032-
「そうだね。では、お客様にどう対応する?訓練だ。第一方針“お客様の立場で”」
その問いにエリアはハッとする。まただ。“臨機応変”だ。
ちょっと考える。ここで必要なのはスピードである。お客様に待っていただくのは避けられない。理由を伝える必要があるが、詳しい説明はくどくて長い。
“要点を、かいつまんで”それが答え。
「申し訳ありません。見習いで良く把握できておりません。他の者に聞いて参りますので、少々お時間頂けますか?」
エリアは会釈を絡めて答えた。
店長はちょっと笑顔。
「いい答えだ。ああ、その時これを持っておくといい。尋ねられた商品名を、復唱しながら書き留める。『間違いがない』という印象を持って頂ける」
「なるほど……」
店長はメモと筆記具をエリアに渡した。
エリアが受け取り、“メモして復唱”と書くとすかさず、
「“おおば”はどこにありますか?」
店長が問う。再び訓練。
「あ、はい。おおば、ですね。申し訳ありません……」
エリアは言った。ちなみに“おおば”が具体的に何か判らないので、ちょっと困った顔になったらしく。
「はっはっは。そこまでリアルに困らなくていいよ。かえってお客様の方が恐縮してしまう。演技は要らない。大事なのは言葉。明るい声で応対してくれればいいよ。ちなみに大葉ってのはシソの葉だ。野菜売り場のショーケース」
「判りました」
エリアは書き留めた。
開店5分前となり、総員集合で朝礼。エリアは店員に紹介された。
「……しばらくみんなに色々尋ねると思うが、よろしく頼む」
「茶色い髪の毛のドジですが、よろしくお願いします」
エリアは頭を下げた。
顔を上げると衆目が自分に集中していることが判る。店員達は一様にちょっと驚いた風の円い目であり、少々恥ずかしい。
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