天使のアルバイト-038-
姿は無いも返事は聞こえ、程なく、隣の通路からパートの中年女性が走ってくる。時間的に学生バイトはおらず、パートの女性たちと純粋な社員、そして“アルバイトのプロフェッショナル”……フリーターだけ。
店長はパートの高木さんに後を任せると、エリアを伴って入口脇のサービスカウンターに向かった。ここでは迷子の保護の他、一般的な客の応対、宅配便の受付をしている。
到着すると髪をゴムで留めた女の子が泣きじゃくり状態。2歳か3歳かというところであろう。フリーターの若い女性店員と、たこ焼き屋の兄ちゃんが、お菓子やオモチャを片手にご機嫌伺いをしている。が、女の子は応じず困っている様子。
「おがぢゃ~ん!」
笛吹けど踊らず。形式的な“あやす”行為を見るに、二人が“いやいや”女の子に対しており、“どうにか静かになってよ”という心理であることが如実に判る。ところが、子どもというのはそれを見抜くもの。若い二人を味方と見ていないことは明白。テレパシーではない。女の子が二人を見ようとしないことから、容易に推察できるのだ。
店長は若い二人に合図。
「後はいいよ」
意味、持ち場に戻って良い。二人は頭を下げて持ち場へ向かった。
同時に自分に任されたとエリアは知る。さてどうしよう。
欲しいのは楽しい雰囲気。
楽しいもの……たとえば歌。
「にゃお~ん」
エリアはまず、猫の鳴き真似で気を引いた。
幼い子向けには“猫は可愛いもの”と紹介されるのが一般的。ゆえに小さい子は猫に可愛い存在という印象を持つ。著名な猫のキャラクターが四半世紀を超えて可愛がられているのもその辺にある。
果たして女の子はハッと黙った。型にはまった“自分を呼びかける大人の声”ではなく、猫のマネというのが興味を持たせたのだ。
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