【魔法少女レムリアシリーズ】転入生(但し魔法使い)-22-
背後に気配。
次の刹那、レムリアは半ば自動的に反応した。
傍らの友を引き倒し、四阿床面に転がす。もちろん目前の危険回避。
そして振り返り、次の意味を有する、異郷の語を放つ。
「(意図したこと形をなさず)」
右の人差し指を唇にあてがう。“静かにして”の動作に似て。
次いで、その指を、気配もたらした主に対し、矢を射るように、向ける。
倒されて身を起こした溝口の目に、自分の動作が見えたことが判った。
自分の動作……指先を向けた……その先……。
ベンチの背後、低い壁の向こうにいたのは、黒縁メガネで全裸の男であった。件の変態紳士であると即座に判じた。
全裸の男は壁乗り越えて四阿へ入り込もうとし、何らか段差に蹴躓いてバランスを崩し、四阿の壁と地面の間に倒れ込んだ。
ゴツ、と重く低い音がし、男が四阿コンクリ床に頭部打ち付けたと知る。
溝口が起き上がり、事象の全容に気が付く。四阿の壁は下部に隙間が空いており、視界には俯せになった男の背中や尻が見えたであろう。
溝口が声を限りの絶叫。立ち上がろうと動作するも、手足が震えているのか、力が入らず、ガクガクとした動きで後ずさりするような状況。
パニックである。彼女をなだめたいが、警察を呼びたいし、この男も不動としたい。
誰か……四阿屋根から顔を出したら、アパートのベランダにいたどこぞの奥様と目が合った。
「どうかしたの?」
渡りに船。
「変質者です!警察に連絡を!」
「判った。息子を行かせるから」
「お願いします」
レムリアは応じると身を翻す。まだ“効いてる”から全裸男は動けまい。
溝口は絶叫こそ収まったが、顔面蒼白となり四阿の反対側の壁に貼り付いて固まっている。
「いや……いや……」
汗が玉をなし首振り拒否する彼女の姿は、男性に対する深い心の傷を示唆した。
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