天使のアルバイト-039-
そのタイミングで歌い出す、“犬のおまわりさん”。迷子だから、の選択ではない。この年齢でも判る歌だからと思ったまで。猫になって、犬になって、困ったり、鳴いたり。
一緒になって歌い出したところで気を許したと読み、抱き上げる。
「おかあちゃんはどこかな?あっちかな?こっちかな?」
突き出た潜望鏡よろしく、あっちを見たり、こっちを見たり。
この間に店長が店内放送を打ったが、反応無し。
「上かな」
店長は呟いた。建物の屋上には駐車場と信用金庫の出張所が入っており、ATMが設置されている。
程なく、正面入口から血相を変えた女性が飛び込んできた。
「すいません!……ああ、えみちゃん!」
「おかあちゃん」
女の子は女性を指差した。
女性が女の子に両腕を広げ、エリアは女の子を女性に任せる。
「どうもすいませんでした」
曰く、ATMに寄ってここで買い物が定番コースのため、女の子は先んじてここへ来た。
一方母親は出張所窓口に立ち寄ったため、はぐれた、とのこと。
「子どもって案外何気ないこと憶えてるもんですね。お世話になりました。さ、えみちゃん行こうか。遊んでもらって良かったね」
母親は言い、恐縮しながらカート置き場へ去った。
「ばいばい」
エリアは女の子に手を振って見送った。
「手慣れてるねぇ」
とは通りかかったレジ主任の女性社員。
「そうですか?結構適当ですけど」
「あんた笑顔がいいよ。あんたにニコッてやられると大抵の子どもは機嫌が良くなる。サービスの一つと思って、子ども見たら笑ってやって」
「え?」
エリアは困った。こう再三言われるからには。恐らく言う通りなのだろうとは思うが、たった今さっき、それで失敗したわけで。
すなわち状況を見極めて、か。再度肝に銘じる。
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