天使のアルバイト-042-
そして、その“落とし穴”が、見えない“節穴”でもあったのだと。
古来、数多いると言われる“堕天使”、そして聖書にも登場する慢心ゆえに落とされたとされる“彼”を笑えない。
「そうか。じゃ、明日もまた8時の15分前までに。頼むよ」
「はい」
エリアは答えた。
着替えを終えて従業員口から屋外、駐車場に出る。時刻は夜の8時半を回っており、空には春から夏の星座が並んでいる。と言っても、それは知識でそうと判断できるのであって、天上で見るのと夜空の様相は異なる。
その途端。
「わっ!」
背後から女の子の大声。
「わあ!」
エリアは驚いて声を上げた。
振り向くと由紀子。嬉しそうにニコニコしている。
「えへへ……帰り遅いから迎えに来ちゃった」
「大丈夫だよ。あーびっくりした」
「ごめんね。行こ」
歩き出す。駐車場照明を落とし、少し暗くなった夜空。由紀子がしばらく見上げたまま目を離さない。
「星……好きなの?」
エリアは尋ねた。
「うん。小さい頃は本気でそっち方面進むつもりでいた。でも……やめた」
由紀子はうつむき、声のトーンを落とす。
「どうして?」
「私には無理だって判ったから」
その言にエリアは首を傾げる。彼女の年齢で夢をあっさり諦めるような発言は珍しいのではないか。
何かあるのか。思っていたら由紀子が立ち止まった。
そしてエリアに背を向け、星空を見上げる。
「聞いちゃったんだよね……聞くともなしに……。お宅のお嬢さんは育ちません。二十歳まで生きられませんって」
「え……」
エリアは身体に電撃を受けたようなショックを受け、息を呑んだ。
そんなことを平然と言い放つ医者がいるのか?
「だから……親もうるさいこと言わず、やりたいことやらせてくれてるの。私それがよく判る……」
由紀子は振り返った。
頬を滑り流れる透明な滴。
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