天使のアルバイト-044-
「精神的ストレスで胃をやられるとか、そういう、気持ちの変化が身体に影響を与えることです。だとしたら……私はもうダメと考えることが、どれだけ身体に悪影響を及ぼすか。想像付くでしょう」
由紀子は目を伏せた。
「……うん」
「医者はいろいろ言ったかも知れない。でもそれは確定事項じゃない。医者が命をコントロールしてるんじゃない。そこに目を向けてよ。何か特定の病名を言われたの?違うでしょ」
「うん」
「弱いというなら強くする。心身相関現象にはそういう逆向きの作用もある。誰かを好きになったことある?すごく元気にならない?あれもそうだよ」
由紀子は何も言わず、うつむいたままぎゅっと口を閉じ、唇をわななかせた。
エリアは由紀子をそっと包む。そして。
「……ごめん、キツイ物言いになったかも知れない。でも、私達は頑張る人に力貸すのが仕事だから…」
それは、つい、口をついたこと。
「え?」
見つめられ、ハッと気付く。しまった。
「……とにかく!そのうち死ぬんだ、とか、絶対に、絶対に思わないこと。生まれてくるということは、生きなさいということだよ。死ぬために生まれてくるなら、最初から生まれる必要なんか無いんだから」
エリアはやや早口になって言った。実際には、彼女のセリフは“学校で習った”内容である。
しかし今、ここでは、彼女自身の知見のようにすらすらと出て来た。“言うべきタイミング”ということであろう。
「うん。判った」
由紀子は頷き、決意したように顔を上げてエリアを見た。意外だ、そんな気持ちが彼女の表情に表れている。
そこで、サンダルを突っかけ歩く音がし、振り返ると由紀子の母親。
二人を発見し、声をかける。
「何してるかと思ったらこんなところで……由紀子どうしたの?」
エリアは母親が由紀子の涙を見つけたと察知した。由紀子も見られたくはあるまい。
理由を追及されるからだ。
「くすぐりっこ!」
エリアは即座に由紀子をくすぐりに掛かった。由紀子が身をよじらせてけらけら笑う。
「総菜食用油ニオイ攻撃」
「きゃあ~」
屈託なく笑い転げる由紀子を、母親は静かな微笑みを浮かべながら見ている。
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