天使のアルバイト-045-
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天気予報に関することわざ“天気俚諺”(てんきりげん)に、“梅雨明け十日”という言葉がある。これは、梅雨明け後しばらくは安定した晴れが続くという意味である。
エリアが川沿いに落下してより季節が一つ。
その、梅雨明け十日に属する、夏の暑い日。
エリアは午後の仕事に就こうと店内に入り、レジへ向かって歩いていた。今や仕事にも慣れ、指示を待って行動する受け身のアルバイトから、提案したり、一部発注も担当するなど、部分的に責任を負う仕事も受けるようになってきた。宅配の荷物手配の他、レジも扱えるようになり、社内試験を伴う総菜の調理以外は一通りこなせるような状況だ。人に頼らず、何でも出来る毎日が楽しい。
その日も、その時までは、いつも通りの楽しい時間経過を辿っていた。
12時と13時のほぼ中間の時刻。
歩きながら気付いたのは、意味をなさない幼い声。
目を向けると、買い物カートに乗せられた幼い男の子が、何か欲しそうに身を乗り出し、 手を伸ばしている。どうやら特設のスイカ用ワゴンの発泡トレイに並べてある、試食用のスイカ片が欲しいようだ。
しかしカートを持つ大人の手はない。カートを置いて品定めといったところであろうか。従って、無人のカートで幼子一人身を乗り出し、という状況。
……危ないのではないか。
エリアはその可能性にはっと気が付き、走り出した。
しかし次の瞬間。
幼子がカート上に立ち上がり、前のめりとなる。その反作用でカートが後ろへ動いた。
従って。
「あっ!」
エリアを含め、周囲数人から、声が挙がった。
幼子の身体がバランスを崩して倒れる。
特設のひな壇型ワゴンの中へ落下する。この時明らかに頭部をステンレス製のPOPスタンドに当てたのをエリアは見た。更に幼子は床面へと投げ出されるかの如く落下した。
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