【魔法少女レムリアシリーズ】転入生(但し魔法使い)-30-
ハシゴから下り、レムリアは男の子に生じた異変と、“いじめ”の理由を知った。
極端な怒りの感情で体表に斑紋が生じる。
毛細血管が切れて斑紋になりやすい“紫斑病”という病気がある。怒りによる血圧上昇がそれを惹起する。
その様相を故意に起こして楽しむ。
何という嗜虐的な“遊び”であろうか。
「大丈夫。私は何もしないよ」
レムリアは、敢えて、日本語で言った。優しい言葉が優しく聞こえる言語だと思うから。
逃げたらしい5人の視線を背後の方々から感じる。男の子は白目を剥き、口角泡を吹き、ほぼ意識を失い掛けている状態である。
手のひらを持ち、手首を握り、肩に手を回し、そのまま抱き寄せる。
10歳か11歳か、その位。何年、こんなことされて来たのか。
背中をなでさすり、ようやく落ち着いてくる。
白目剥いていた碧眼がレムリアに焦点を合わせた。
「……天使様」
という英語。彼にも術は掛かっている。
「ずっと見ていました」
英語で応じる。そして知る。彼が過去何度も、やめてと周囲に頼んでいたこと。引っ越しを繰り返し、それでも結局はこうなってしまうこと。
もう、あきらめていること。
走馬燈のように流れる記憶を拾い上げる。
「でも、もう大丈夫。私が魔法をひとつあなたに掛けます」
呪文、夕刻なので月齢ほぼ7の半月が中天にいる。
「(我の唱える解き放つ力この身へ降らせ『意図したこと形をなさず』)」
レムリアは、そんな意味の語を唱え、唇に指先で触れ、その指と手のひらをまっすぐに月にかざし、
短い髪の毛がふわりと動いたところで、手のひらを握り拳とし。
そして、男の子に握った拳を両手で握らせ。
その状態で、手を広げる。
「あ!」
男の子は電撃でも受けたように身体をビクリと震わせ、声を上げた。
「これであなたは一つだけ魔法を使えます。呪文はこう『意図したこと形をなさず』……」
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