天使のアルバイト-048-
それは守りたいと感じた対象に対するナチュラルな情動でもある。考えてそうしようとしたのではない。言うなれば“天使の流儀”か。この時、彼女は自らの力が封印されていることを意識してはいない。
目を閉じて指を這わせ、傷の位置を意識する。
“治れ・止まれ”という気持ちを、その傷口に送り込む。
ハンカチを通し、手のひらに感じる脈動。
その脈動の都度、傷口から血が溢れる様が思い浮かぶ。
それに対し、脈動が静まる様をイメージする。血の流れが収まる様子を意識に描く。幼子の頬を撫でさする。
そして呼びかける。頑張って。幼き身体よ大丈夫だから頑張って。
呼びかけながらエリアは強く願う。その強い願いが身体を更に熱くする。それは傍目には焦りとも必死さとも映るかも知れぬ。人は“何とかしたい”という気持ちを抱くと、発汗するような感覚を生じる。全身が熱を持ち、その熱が血流に乗って更に身体の隅々へと流れ出す。
この時のエリアは、幼子を抱き、血にまみれ、しかしただじっと目を閉じ、そして汗だくになっているという状況である。異様な光景と言って良く、ゆえに傍目を彼女に集中させ、同時に黙って推移を見守らせることによって、パニックの芽を摘んだ。
エリアは自身の発熱を認識した。
意識したのみならず、炎のような熱さを自分の身が実際に発していることに気が付いた。
手のひらに感じる脈動は収まったわけではない。だが、その傷口の状況が指先で子細に判る。この身体を満たす熱いものが、傷口に何らかの作用を及ぼしていることを感じ取る。
そして気が付く。
幼子の脈動と、自分の鼓動とが、全くタイミングを等しくしている。
ハーモニーを奏でるように、二つの心臓が同じタイミングで拍を打つ。
“命のシンクロ”
| 固定リンク
「小説」カテゴリの記事
- 【理絵子の夜話】城下 -10-(2023.12.09)
- 【理絵子の夜話】城下 -09-(2023.11.25)
- 【理絵子の夜話】城下 -08-(2023.11.11)
- 【理絵子の夜話】城下 -07-(2023.10.28)
- 【理絵子の夜話】城下 -06-(2023.10.14)
コメント