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天使のアルバイト-049-

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 そのフレーズは、天上世界の典雅な響きを持って舞い降り、事象の意味をエリアに教えた。それは新生児と母親の間に在する不可視のやりとりであり、一卵性双生児が持つシンパシーに類似するものである。
 幼子の身体が熱い。
 エリアは何が起こったか知った。
 生命力の発露。
 それは、人間という以前、地球生物としてDNAに刻まれた底力。
 この発熱は、命の炎。
 知る。今この命は生きようとしている。小さな身体が生きようとしている。
 自分の願いに応えて……か、どうかは判らない。が、精一杯生きようとしている。それは確か。
 頑張って、と彼女は呼びかける。頑張って。そう、大丈夫だから頑張って。生きようとして。
 大丈夫だから。絶対に大丈夫だから。
 店長が走ってきた。
「包帯だ!」
 その声に、エリアは目を開け、店長を見上げた。
 店長はエリアを見、そのまま、まばたきを忘れた。
 電撃を食らったかのように身体を瞬間、びくりと震わせ、言葉を失う。
 その時の店長の様子をどう形容すべきであろう。宇宙空間において、スモッグも雲すらもない、“無垢の太陽”を見た飛行士は、その輝きに母を見、そして神を感じて言葉を失うというが、それに近いものであろうか。
「……ああ申し訳ない」
 それでも店長は我に返り、包帯を差し出した。そうさせたのは店長という立場と、男性であることの本能、すなわち父性の持つ責任感である。それはパワフルな雰囲気を周囲に放ち、重心が低く落ち着いた気配を持たせ、周囲に安心感を付与する。その変化は、彼がエリアに“無垢の母性”を見たとすれば、その故に彼のDNAに秘匿されたスイッチがオンとなり、瞬間の父とした、と説明が付く。ちなみに、人類は群れとして生きてきた経緯から、母性や父性の発露は、血縁には左右されない。
 

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