天使のアルバイト-057-
ゾッとするような気持ちが全身を襲う。
自分の体温が下がるのが判る。口に出したくない予感……。
あきらめるのか?あきらめなくてはならないのか?
否!
エリアは不安につけ込んでくる諦念を振り払った。この子が“引き返し点を越えた”と誰が決めた。
今、この子は、自分以外、誰に、何が頼める。
自分を含めたここにいる人々に“心臓マッサージと人工呼吸”以外の何が出来る。
心臓マッサージを再開する。“予感”を伴い、足下から揺さぶってくる気持ちと戦いながら、エリアは息を吹き込み、胸を押す。
彼女エリアの、そうした動作眼差しは、少ない衆目をその動作に集中させ、まばたきもせずに見つめさせた。衆目の真剣な眼差しが彼女を捉え、固唾を呑んで推移を見守らせた。この金髪の娘を“信じる”。その光景は、そう表現できるであろう。
そしてそう、エリアも信じている。しかし、手先に感じる幼子の命の状態が、すぐにでもその信念を不安で突き崩そうとする。
ひっきりなしの不安の突き上げ。それを自分の意志で処理しきれないのなら。
リテシア様!エリアは祈った。リテシア様、いや、リテシア様でなくて良い。ガブリエル様ミカエル様……いと高き地におられるセラフィム……。
どなたでもいい。私にこの子を助ける力を貸して。
エリアは祈る。そして信じる。
なのに、この目からボロボロこぼれてくる液状のものは何か。
声がした。
「あの……店長……」
中崎青年…たこ焼き屋のお兄ちゃんが恐縮気味に声を発する。
「何だ」
店長が振り向く。半ばいらだちを伴う声音。
「車の人」
青年のその言葉に、その場の全員の目がそこへ向く。
それは若い女。茶髪で厚底サンダルを履き、いかにも軽薄という印象の服装と化粧。
「うちの車に何を……」
「うるせえ!お前それでも母親か!」
店長が一喝した。
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