天使のアルバイト-059-
「体温計です」
薬剤師は店頭サンプルの電子式……通称“耳温計”を持ってきた。
早速耳に入れ、温度を測る。
41・9度。
「それ以上出ないのよ」
言われてエリアは頷いた。確かに、一般に42度以上の体温は存在しない。
なぜなら死んでしまうからである。そして、赤ちゃんの温度は恐らくその死の領域。
危険であることに変化はない。ただ、ただ、ひとつ言えるとすれば、触った感じでの比較ではあるが、少なくとも運び込んだ時より体温は下がったと思う。
ハッと気が付く。
それはつまり、このつたない心臓マッサージでも奏功しているということ。
それと。自分よりこの子が熱いならば。
まだ出来ることがある。エリアは気付いて制服を脱いだ。
Tシャツ姿になって赤ちゃんを胸に抱える。
何という熱さ。薄い衣服を通じて感じる体温はまさに炎。
エリアは赤ちゃんを抱きしめる。自分の身体と赤ちゃんの身体でタオルを挟み、冷却を促進しようというのである。単にタオルを載せるだけよりは、冷却効果は恐らく高い。
信念が戻ってくる。ドアを開いた時と同じ、太く強い確信が再び身体に宿る。
不安が消える。そして訪れる、炎のような認識。
この子に動かす力がないのなら。
私が、心臓動かして血を巡らせる!!
「茂樹ちゃん」
涙声の母親。
「大丈夫……頑張って。助けるから。必ず助かるから……」
エリアは言いながら、抱いた信念に絆されるまま、マッサージを再開した。
その炎のような信念は、特殊な能力の持ち主が見たならば、恐らく本当に燃え上がる炎として見えたであろう。
エリアは今、自分の手がこの子の心臓を動かしていると、信じた。
「茂樹」
子の名を呼ぶ母。近付いてくる救急車。
「茂樹っ!」
何も言わないエリアに不安を感じたのだろう。母親の声がヒステリックな調子を帯びる。
そこで、エリアは母親に目を向けた。
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