天使のアルバイト-063-
「いつも悲壮な顔してさ、中世の暗い感じの絵を見るとか、そんな娘だったんだよ。店長があんたのこと不思議だっていつもこぼすけど、ホント私もそう思うよ。あんたが来てからあの子は変わった。あ、さっき店長にねぇ、明日あんたを休みにするようにって頼んでおいたから」
「え?」
エリアは母親の顔を見た。
明日は土曜……何かあるのか。
「由紀子がね……」
母親は長野県にある著名な高原の名を口にした。
「行きたいって。前からずっと言ってたんだけどね。だけど、すぐに乗り物酔い起こす娘だからさ、行ったことなかったんだよ。でも、最近元気だろ?大丈夫そうだから連れてってやろうかって。もちろん、あんたも一緒にね」
「わあ。いいんですか?」
エリアは笑みを作った。その高原は中部山岳地帯の中にあり、景色の美しさと頂上にある美術館で知られる。その魅力のほどは由紀子から聞いている。絵が好き、なるほどである。
「ぜひ!」
「でね。その代わりに……ちょっと店長さんっ。さっきの話」
母親は受付脇カウンターの店長を呼びつけた。
店長が気付き、小走りにやってくる。
「はいはい。ああ、エリカちゃん。君、お正月までこっちにいるかい?」
エリアは解答に窮した。
それを決めるのは自分ではない。ただ、それまでに呼び戻してもらえるという感じはない。
「ええ。今のところは」
「じゃさあ。悪いんだけどさあ。オヤジの神社で巫女やってくんないかなあ」
店長ははにかみながら言った。
「……は?」
エリアは目をしばたたく。
み、こ。?
か、神様が違う気がしますが……?
無論、そんなことは人類全体を視野に置いた場合、些細なことだと判ってはいる。
“神”と、それに準ずる“聖なる存在”とがいる。そのシステムや与えられた資質等は、呼び名やその他は違っても、大枠の部分では多く共通であろうからだ。
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