天使のアルバイト-064-
ただ、人類がその方面で互いにいがみ合っている以上、形而上側としても、人間に合わせた姿形、概念形態を取らないと受け入れてもらえない状態になっており、その点でエリアは“天使”の属性を備えている。
従って日本の“八百万の神々”を有する神道体系は、一般教養的な部分でしか対応できず……。
「お~いエリカちゃん。どうした難しい顔して」
店長が言った。
「あ、いえ、巫女さんとなると儀式とか祝詞とか真言とか……」
そのセリフに店長は笑った。
「真剣に考えすぎだい。そういう卑弥呼みたいな本物じゃなくてバイト巫女だよ。ぶっちゃけ巫女姿の売り子さん」
「へ?」
エリアは力が抜けた。
神々と交流し、その依り代として未来を語り、一族を繁栄に導く……。
「本当に世間ズレしていないんだねぇ。日本の正月は今やお祭りの一種。形だけのものだよ。そりゃ清めの儀式はするけど、真剣に八百万の神々……なんてのが果たしてどれだけあるか。巫女装束着て当店から“出向”してくれればいいんだよ。いつも通りにありがとうございました、ってね」
店長のセリフは、エリアとしてはホッとしていいのか、それとも形而上側の一員として問題視すべきなのか。
「だめかい?」
店長が再度訊く。エリアはそこで、店長と母親とが“目線で会話”していることに気付いた。それは二人に暗黙の了解があり、自分の反応を最終回答として待っている、ということ。要するに。
裏取引成立済み。
「どう?エリカちゃん」
母親が小さく作り笑いをして訊いた。
エリアは納得した。道理で、“土壇場休み”を取らせてくれないと言われる店長が、母親の一言で休みを出したわけだ。
「判りましたお引き受けします。でも、全然判んないので教えてくださいね」
エリアは苦笑混じりに言った。
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