アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-009-
揺れが続く。次第にユサユサが大きくなり、オフィス内の諸々がガシャガシャと音を立てる。机上に積まれた書類がバサバサ落ち、棚の上に並べ広げた図面のファイルが倒れ、振動に少し跳ね飛びながら動き、床面に落ちる。吊り天井のボードが擦れ合ってキシキシ言い、粉塵を煙のように広げ、コピー機やシュレッダーなど、比較的大きなオフィス機器類がガチャガチャと音を立て、接続部を軋ませる。破壊や落下に伴ってキャッ、という女性社員の小さな悲鳴や、おお、という男性社員の小さな驚愕。
揺れが収まらない。少しずつ大きくなりながら、ユサユサと揺れ続ける。
「長いな」
落ち着いた声はスペース内奥、観葉植物の傍らに立つ部長であった。深い皺が刻まれ、白髪が目立つその表情には、若干の苛立ちが見える。課長と共に出る予定であり、スーツを着てネクタイを巻き付け中。
「どうなんだ相原」
部長に問われて彼が思い浮かべたのは2004年、スマトラのマグニチュード9.1であり、古文書から推定したという1707年宝永地震、マグニチュード8.6であった。
スマトラは7分揺れたという。宝永地震は3~5分は揺れたであろうと言われる。なお、宝永地震の揺動時間は、当然時計の無い時代であるから、何歩歩く間とか、煙草を何回吸う間、といった表現で揺れた時間を記録している。
「これは巨大な、あっ」
揺れ始めて1分30秒。
擬音語を使えば“ビシッ”に“ズシッ”が混じったと書けようか。
ひときわ大きな揺れが東京近辺に来襲する。それは震動モードが別次元に遷移したことを示した。
これまでに、経験したことの無い、巨大な地震であると、相原は直感した。
ビシッ、は、建物鉄骨が一斉に応力で変形し、音を発したのであった。
ズシッ、は、他でもない大地岩盤の空気震わす音であった。
ズシッと大地が大きく動き、ビシッと建物が応じて歪んだ。
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