アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-010-
「何だぁ?」
「身を隠して下さい!机の下に!」
およそあらゆる物が揺れ動く。その音よりも大きな声で相原は叫ぶ。それは船に乗っているようなゆーらゆーらした動きと、従前来のユッサユッサが重畳された揺れであった。双方の位相が重なり、振幅が大きくなった時には、応じて大きな動きになり、位相が逆になった時は、例えば右に動きながら左にも動いているような違和感を与えた。
コーヒーがマグカップから溢れ出し、机の端から垂れて落ちる。
重さ100キロの多機能コピー機がキャスターのロックを壊して動きだし、ゴロゴロ動き、スペースを区切る移動壁、パーティションに衝突した。
その衝撃でパーティション裏側にあった給茶機が転倒し、ドンガシャンと大きな音を発する。この手の落下破壊に伴う音は恐怖心を増幅させる。
「給茶機が倒れただけだ」
女性社員の悲鳴に相原は冷静に応じた。給茶機はL字金具で床面にボルト止め固定されていたが、繰り返す揺れに耐えきれず、コピー機の一撃でボルトが折損したのであった。
隣接する茶箪笥が倒れる。ガラスと陶器が甲高い音を立てて割れ砕ける。
都度、女性社員の悲鳴が上がる。
「キャー」
揺れは収まらない。
「もうやだ」
「何これ、ねぇ何なのこれ」
深甚な恐怖とパニックが女性社員らを捉え始める。
「本物の大地震です。潜って身を守って下さい。3分から5分は見て下さい。どうしても耐えきれない時は逆に足踏みするといいです」
(NS:南北方向のずれ/EW:東西/UD:上下)
相原は机の中から声を発した。四つん這いになっていると床面は明らかに右に左に斜めに傾き、戻り、を繰り返していた。建物の中にいて、建物の構造体を見ているのであるが、生き物の背中のように動くのであった。まるで大地自体が大きなヘビか何かのようにのたうち、這い進むかの如くであった。
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