天使のアルバイト-065-
由紀子のセリフを思い出す。『オトナって頭ごなしが不可能な場合は外堀から埋めてくるんだよね』。由紀子ちゃん、あなたは鋭い。
「そうかあ。そうかあ。いやあ良かった!!」
店長が満面に笑みを浮かべて言い、母親が満足そうに頷く。
その時だった。
入口自動ドアのガラスが、割れんばかりに荒っぽく叩かれる。
振り向くと否、叩かれるではなく蹴られている。ぐらぐら震えながら、モータドライブでドアが開く。
「オイこらぁ!店長はどこじゃあ!」
野卑な声ががなり立てた。
客も店員も動作が止まる。主婦同士のお喋りも、価格を読み上げる店員の声もピタリと止み、多くの目が男の方へ向けられる。
「あ!お前だお前!そこの金髪の女!お前だ!」
男はエリアを指差した。ちなみに、男の目的が“言いがかりを付けに来た”であるのは論を俟たないであろう。
「このクソ女(アマ)が……」
男が遠巻きの衆目の中、数語の冒涜の言を吐き、エリアを指差しながら歩いてくる。口ひげを生やし、サングラスをかけ、服装は一見大人しそうな黒のスーツ。しかしその内側には大きな竜の刺繍が入っている。
俗に“その筋”の者と呼ばれる人種である。低劣そのものであり、暴力を取ったら何も残らない。
エリアは軽蔑の目で男を迎える。その顔は興奮に赤くなって血管が浮き立ち、サングラスの向こうでは鉛色の目が攻撃的にギラギラ光っている。
男がエリアの視線……自分を真っ直ぐに見ている……に気付いたのだろう。鉛色の目が大きく開く。敵意(ガン付け)と受け取った。
交差する二人の視線を店長の身体が遮った。
店長が男に面と向かう。母親がエリアの手を取り、その場から彼女を引き離そうとする。
“待って”エリアは振り返り、手のひらの所作で母親を制する。理由、ここで動いても男が追ってくるだけの話。
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