天使のアルバイト-068-
「この……」
エリアの見下したセリフは明らかに挑発であったが、暴力を取ったら何も残らないであろう男は、あっさりとこの挑発に乗った。
しかも相手はどう見ても小娘である。“極道”が公衆面前で“小娘”にあしらわれる。
それは男のプライドを痛く傷つけたようだ。
「女に小馬鹿にされたって怒ってんの?古いねえ。何億年前の極道だよ。いやカタギに因縁付けるなんざ極道に失礼さね」
時代劇の女将さんとでも書こうか、軽妙で切れ味の良いエリアのセリフに、取り巻きが失笑する。
「てめ……」
男は鼻息が荒いだけで声が出ない。あまりに度が過ぎた怒りで満足に脳が動かないらしい。
周囲の呼気アルコール濃度が次第に高まる。
「確かに……事故品に気付かず売ってしまったのは私のミスです。それは謝ります。返金或いは正規の商品とお取り替えのどちらかご希望の処置を執らせていただき、更にご希望であれば健康診断の手続きをいたします。しかし、実際にはあなたの“若い衆”さんは誰一人、腹痛など起こしたわけではない。それが証拠に診断書も何もない。お金が欲しいなら、こんなことするより診断書見せる方が余程効果がありますからね。でもそれは存在しない。それは何も起こらなかったことの何よりの証明。さあ、どうします?それでもお金を、というなら立派な恐喝。暴力振るえば暴行です。あそこで監視カメラに録画もしています。逆にあなたが咎められる立場になりますよ。小娘にバカにされてカタギの人たちに笑われた上、勝ち目のない裁判しますか?」
一連のセリフはエリアから立て板に水の如く流れ出た。店長は驚きと……恐らく、どうしていいのか判らないのだろう。男とエリアを交互に見ている。
その、次の瞬間。
「この……」
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