アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-018-
屋外なので破壊や落下の音もない。それもまた、パニック減少効果。
ただ、各所建物の駆体はコンクリートの概念を覆すようにねじれてギシギシ軋み、ガラスは歪んで風景をグニャグニャ映し、今にも割れそう。植えられた木々は大きく揺れてやはり軋む。葉を持つものはバサバサと音を立て、
何より大地地面が引きずるような音を発する。遠雷のそれに似た、ゴロゴロとした音が地面一帯から生じて空間全体に充満する。恐怖と、しかし立っていられない現実との帰着として、徒競走のスタートのように腰を浮かせ、足と手で身体を支える。
男の子の手だけは握って。
長周期震動と通常のユサユサとした揺れの重なりはここでも感ぜられた。位相が合致して振幅が大きくなった時は応じて地面がゆらりと動き、そこここで人々は身体を持って行かれてよろめき、驚きの声が上がる。
「おお」
「すごーい」
「こりゃ凄いわ」
そして逆相になった時の“右と左に同時に動く”感覚は違和感に伴う悲鳴を引き出した。
「や、や、や、何これ」
「変。おかしいよ何この地震」
「終わらない。何これ何なの?」
三半規管が対応できず“酔う”感覚。それが長続きし、パニックを誘う。
もう一度何か言おうか、レムリアが思った時、誰かが声を発した。
「宮城県沖で震度7だってよ」
携帯電話のテレビ……ワンセグの音が聞こえる。
「宮城!?」
鋭敏な反応を見せたのは班内の田立(ただち)という娘であった。
「宮城県沖ってマジ?あたし気仙沼(けせんぬま)におばあちゃんが……」
震える手で携帯電話を取りだし、発呼を試みる。
震動は段々収まる傾向を示す。レムリアは男の子に頷いてから立ち上がり、周囲を見渡す。同じように各所で人々が集まって座らされており、照明柱類が大きく揺れているのが見える。だが特段、施設や舗装面へのダメージ、出火は無いようだ。
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